研究課題/領域番号 |
18K09595
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
川瀬 知之 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (90191999)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血小板 / 多血小板血漿 / microparticle / 抗炎症 / PPARγ / 増殖因子 / α顆粒 |
研究実績の概要 |
1)microparticle (MP)放出現象の可視化: 洗浄血小板は0.01% CaCl2刺激で活性化される.前年度の走査型電子顕微鏡(SEM)試料調製用特殊フィルターを用いたMPの可視化を踏まえて,ガラス採血管により調製した多血小板フィブリン(PRF)のフィブリン線維の表面上に付着したMPを検出することを可能にした.さらに,チタン板上で活性化された血小板においても,洗浄法の工夫により検出できる条件を確立した. 2)洗浄血小板中からの増殖因子放出の可視化: 血小板のα顆粒中にある増殖因子(TGFβ1, PDGF)は,活性化によって血小板の外に放出される.免疫蛍光染色(IF)による継時的な観察の結果,フィブリン線維が血小板の周囲に形成される条件下において,PPARγがTGFβ1やPDGF と同様に血小板周囲に限定的に局在する所見を得た.これは,血小板から放出されたMP中にこれらの生理活性因子が保持されている可能性を示唆している. 3)PRF中の血小板と増殖因子放出の可視化: PRF中の血小板と増殖因子の局在を比較検討した.比較的高速遠心にて調製するCGFの場合,血小板は遠心力がかかる採血管との接触面に集中して局在するのに対して,TGFβ1やPDGFなどの増殖因子は遠心力のかからない近心側のガラス採血管との接触面とその表面下に局在する傾向が認められた.これは血小板とMPとの比重の差から生じたものではないかと考えている. 4)洗浄血小板調製条件の検討: 洗浄血小板を調製する基礎技術として,抗凝固剤としてACDの使用が推奨されているが,血小板凝集を効率的に抑制できるわけではない.CBCで多用されるEDTAを用いた調製法が血小板に及ぼす影響を検討した結果,頻繁に指摘されている細胞傷害は24時間以内では認められなかった.この条件下では,MPや増殖因子のロスを最小限にできるかもしれない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
様々な刺激で活性化された血小板MP放出現象をSEMにより再現性よく可視化できるようになった.また,MPを活性化血小板の周辺にとどめておくようなフィブリン線維形成を誘導した場合,PPARγの局在がTGFβ1やPDGFの局在と一致する傾向が認められた点は大きな前進であった.しかしながら,MPのマーカーといわれるCD62PあるいはCD63との二重染色はまだ成功していないため,これらの液性因子がMP中にとどまっていることを直接的に証明するところまでには至っていない.
MPの評価法としてフローサイトメーターによる解析もある.今回は,2社の異なる標準粒子マーカーを用いて厳密に実験を繰り返した.コールター原理による計測では,血小板直径のピークが予想よりやや小さめの直径1-1.5μmの範囲に認められ,一般的にMPのサイズといわれるサブミクロンの領域での微粒子集団は認められなかった.文献的に検出可能といわれている遠心条件,すなわち現有の小型卓上遠心機において最高速度で30分遠心した場合でも,そのようなデータしか得られなかった.
しかしながら,洗浄血小板の調製法においてEDTAの応用が再現性あるデータの取得に有効であることが示唆されたこと,また,シリカ微粒子を含む採血管によるPRF調製が非常に効率的なフィブリン線維形成を誘導することを発見したことで,本研究の実験デザインに多様性をもたらしたことは間違いなく,上記の遅れを後方から挽回する効果があったと評価している.
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今後の研究の推進方策 |
同様の実験を繰り返してきた経験から,MPを効率的に検出するための課題として,ピペッティングや遠心によっても活性化される血小板をできるだけ低活性化(resting)な状態に維持することが重要であるとわかってきたが,EDTA採血が有効である可能性が示唆された.
この条件をさらに最適化して,これまで試してきた免疫蛍光染色やフローサイトメトリーを再度実施して,MPの放出を可視化する計画である.また,PRF中のフィブリン線維に付着しているMPと思われる微粒子の検出についても,シリカコート採血管を使用することにより効率的に凝固促進が可能となり,MPのロスを最小限にすることができるのではないかと期待している.
研究目的の達成度からみると,進捗はやや遅れていると自己評価しているが,上記のように実験条件の大幅な改善や選択肢の多様化が進んだことから,これまで不首尾の終わった実験も大きく進展するものと期待される.
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