研究課題/領域番号 |
18K09602
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
久保 至誠 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (80145268)
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研究分担者 |
二階堂 徹 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (00251538)
高垣 智博 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (60516300) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | くさび状欠損 / 欠損形態 / 進行速度 / 進行方向 / 3次元計測 / 長期観察研究 / ンポジットレジン修復 / フロアブルレジン |
研究実績の概要 |
くさび状欠損の経時的変化(進行)を調べるために作製した連続模型から、3年以上追跡できた症例を抽出し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて3次元測定を行った。計測できた83例(16人)を解析した結果、欠損形態と進行パターンには関連があることが分かった。すなわち皿型に比較すると、くさび型の欠損は臨床的に重要な歯髄(深さ)方向により速く、より大きく進行することが明らかになった。また、欠損サイズについても、深くなるに従い歯髄方向への進行量は大きくなるが、歯の長軸方向の大きさは縦方向の進行量と関連はなかった。さらに、くさび状欠損の進行は速い時期(進行期)と遅い時期(停滞期)を経ながら進行することも示唆された。現在、執筆中の論文はほぼ投稿できる段階にある。 2-ステップ接着システムの臨床研究では、32症例を21年間追跡できた。HEMAの有無に焦点を当てた観察研究の14年後のリコール率は74%(79例)であった。ペーストタイプとフロアブルレジンを比較した観察研究(14年)では、81例を追跡できた(リコール率86%)。最近の接着システムは、HEMAの有無にかかわらず14年以上経過しても脱落はほとんど見られず、優れた接着耐久性を有することが明らかになった。また、辺縁着色が半数以上に認められたものの、ほとんどは臨床的許容範囲内で、二次う蝕に進行したものはなかった。フロアブルレジンはペーストタイプに比べ脱落症例や多く、濃い辺縁着色や著しい摩耗も散見され、12年経過後には有意な差が見られるようになった。観察期間が長期になるに従い、修復物は直接関係していないが、非う蝕性の欠損再発が徐々に増加した。その半数は発生確認後2~3年で補修あるいは再修復が必要なほど急速に進行した。今後、課題であった統計解析の問題を解決するため、Frailty modelを学び、生存分析を行って論文を投稿する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
くさび状欠損83例の2次元および3次元的に測定した結果を欠損形態と進行速度、進行方向などの観点からまとめた。さらに、どのような過程をたどるのか、進行パターン(速い時期:進行期、遅い時期:停滞期など)についても検討を加えた。今日まで、くさび状欠損の進行に関する縦断研究は数例報告されているが、その多くは成因と進行速度との関係に焦点を当てて解析されており、本研究のような視点から検討を加えた研究は見当たらない。結果の解析が終了したので、論文執筆に取り組み、ほぼ投稿できるところまで書き上げた。 2005年に開始したランダム化比較試験(研究協力者29名)の12年経過時のリコール率は76%であった。本研究の開始年度の2018年度はそのリコール率を維持できたが、2019年度は2人の追跡が不可能となり(健康状態悪化:1、転居:1人)、リコール率は69%まで低下した。ただし、フロアブルとペーストタイプのコンポジットレジンを比較している研究に関しては82%と高いリコール率を維持できた。 独立を仮定する統計学的観点から、最近の歯科保存修復領域のランダム化比較臨床試験では、1人の研究対象者に対照群と実験群を1例ずつ処置するようになってきた。しかし、2007年に年にFDIのプロジェクトチームから臨床研究に関する論文が発表されるまでは、どちらかと言えば、くさび状欠損を対象とした研究では1人に複数処置することが推奨されていた。したがって、修復領域の長期臨床成績を調査している研究者からは、この問題の解決が緊急の課題であった。Frailty model解析によってこの問題解決が図れることが判明し、勉強会を開催するとともに専門家にも教えを請い、その修得に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
くさび状欠損部コンポジットレジン修復に関する臨床研究(ランダム化比較試験として開始したが、倫理委員会に承認された研究期間を過ぎてしまったので、現在は観察研究として承認を得て継続している)では、種々の問題の進行パターン(どのような過程を経て進行するのか)を調査するため、積極的に介入せずに経過を追っている。14年に及ぶ追跡期間中に、修復物に大きな問題はないが、新たに生じたトゥースウェア(tooth wear:歯の損耗のことで、非う蝕性の咬耗、摩耗や酸蝕症のことを指し、くさび状欠損の成因にはこれらが複雑に関与している)が約2割に認められ、長いもので12年追跡している。その約半数は検出後2~3年で補修あるいは再治療と判定されるまでに進行した。その後も修復せずに経過を観察できた症例では、進行速度の鈍化傾向が見られた。今回の模型を用いたくさび状欠損の進行に関するデータは、くさび状欠損のある時期の数年(3~5年)間を切り取った最初と最後の測定値であるため、進行期や停滞期の期間はいうに及ばず進行量の変化も把握できなかった。そこで、年度ごとの進行量を調べることによって、ステージが変化することを客観的に明らかにできればと考えている。さらに、これまで皿型とくさび形に大きく分けて形態と進行パターンとの関連に検討を加えてきたが、より詳細に分類した方がより正確に解析できることが示唆されたので、これに取り組む。 新型コロナウイルス対策として、2020年度当初から外来診療の制限処置がとられているが、できれば切りの良い15年後の評価を行いたい。1人の研究協力者が対照群と実験群だけでなく各群につき複数の症例を有するという統計学上の問題は、Frailty modelを用いた生存分析を行うことで解決を図り、リコール率が高い8年あるいは長期経過だからこそ明らかにできた10年、12年後の成果を論文にして発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の一部を発表する予定であった国際学会(2020年3月、ワシントンDC、米国)が、新型コロナウイルスの感染拡大のため開催中止となった(紙上開催)。このため、科研費より支弁していた出張旅費と事前参加登録費の全額が払い戻しとなり、365,101円の次年度繰越金が生じた。 研究分担者のチームには、2020年度の研究組織一部改編を事前に通知し、2019年度中に全額を使用していただいた。 2020年度に入っても、新型コロナウイルスの影響で、6月までに予定されていた国内の春期学術大会は既に中止が決定された。夏期以降も国内は言うに及ばず国際学会の開催が危ぶまれている。2020年度は研究期間の最終年度にあたるので、成果発表、研究打ち合わせに計上していた旅費予算を他の科目に振り分け、全額執行する計画である。
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