研究課題
くさび状欠損の経時的変化(進行)を調べるために作製した連続模型から、3年以上追跡できた症例を抽出し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて3次元測定を行った。計測できた83例(16人)を解析した結果、欠損形態と進行パターンには関連があることが判明した。すなわち、皿型に比較すると、くさび型の欠損は歯髄(深さ)方向により速く進行することが明らかになった。一方、歯軸(縦)方向の進行では形態による差は見られなかった。欠損サイズについては、深くなるに従い歯髄方向に大きく進行したが、縦方向の進行にはサイズとの関連は認められなかった。さらに、くさび状欠損の進行は速い時期(進行期)と遅い時期(停滞期)を経ながら進行することも示唆された。HEMAの有無に焦点を当てた観察研究(実質的にはランダム化比較試験)の15年後のリコール率は74%(79例)であった。ペーストタイプとフロアブルレジンを比較した試験(15年)では、81例を追跡できた(リコール率83%)。最近の接着システムは、HEMAの有無にかかわらず15年以上経過しても良好な保持率(95.5%)を示し、優れた接着耐久性を有することが示された。また、辺縁着色が半数以上に認められたものの、ほとんどは臨床的許容範囲内で、二次う蝕との区別が困難な症例は178例中4例のみであった。フロアブルレジンはペーストタイプに比べ脱落症例や多く、濃い辺縁着色や著しい摩耗も散見され、12年経過後には生存率に有意な差が見られるようになった。観察期間が長期になるに従い、修復物は直接関係していないが、非う蝕性の欠損再発が徐々に増加した。その半数は発生確認後2~3年で補修あるいは再修復が必要なほど急速に進行した。
3: やや遅れている
2020年12月に追跡可能な全研究協力者の15年後のリコールを終え、データ取得を完了した。臨床研究終了までの3年間に2人の脱落者があったものの、フロアブルとペーストタイプのコンポジットレジンを比較している研究に関しては83%と高いリコール率を維持できた。くさび状欠損の経時的変化の3次元測定も終えているので、これらの臨床試験の終了手続きを終え、倫理委員会に承認された。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、前期の講義のほとんどがオンライン講義となったため、その準備で忙しく、複数の論文を書く時間を確保できなかった。くさび状欠損の進行パターンに関する論文は大学院生の学位審査主論文となるため、この原著論文(英文)を優先して学術雑誌に投稿した。しかし、新型コロナウイルスの影響で通常より査読に時間がかかった。判定はメジャーリビジョンで、年度内にアクセプトされるまでに至ることはできなかった。くさび状欠損部コンポジットレジン修復の長期臨床試験に関する論文は、研究成果の学会発表、講演や依頼原稿(解説)執筆、上記の論文の再投稿作業等の理由で、ここ数ヶ月は中断を余儀なくされている。
「くさび状欠損への効果的な対処法に関する研究」および「くさび状欠損部コンポジットレジン修復の観察研究」の研究終了報告書を令和3年1月6日に提出し、倫理委員会により適正と判定された。さらに、令和3年3月31日をもって長崎大学を定年で退職になったが、客員研究員として1年間歯科補綴学分野に受け入れていただき、研究期間の延長も承認された。したがって、令和3年度は令和2年度までに得られたデータのまとめ、成果報告、論文作成に割ける時間、すなわち科研費研究課題に対するエフォートを無理なく増やすことができる。くさび状欠損(非う蝕性歯頸部歯質欠損症:non-carious cervical lesion)の進行に関する研究成果をまとめた原著論文は、投稿した学術雑誌の査読者のコメントに応じ、図・表の追加と原稿の修正を速やかに行い、再投稿する。くさび状欠損部コンポジットレジン修復に関する臨床研究では、修復物に関する種々の問題の進行パターンを明らかにするため、積極的に介入せずに経過を追ってきた。15年に及ぶ追跡期間中に、修復物に大きな問題はないが、新たに生じたトゥースウェア(非う蝕性の歯の損耗)が約2割に認められ、長いもので12年間追跡している。その約半数は検出後2~3年で補修あるいは再治療と判定されるまでに進行した。残りの半数では、進行速度の鈍化傾向が見られた。また、フロアブルレジン(50例)は経過年数が長くなるに従い摩耗を示す症例が増加し(15例)、内3例は要再治療と判定された。これらはまだ報告されていない新知見なので、リコール率が高い8年、さらには長期経過だからこそ明らかにできた10年、12年、15年後の成果を可及的速やかに論文発表する。
研究成果を発表する予定であった国際学会(2020年3月、ワシントンDC、米国)が、新型コロナウイルスの感染拡大のため開催中止となった(誌上開催)。このため、科研費より支弁していた出張旅費と事前参加登録費の全額が払い戻しとなり、365,101円の次年度繰越金が生じた。新型コロナウイルスの影響で、年度内の国内外の学会はすべて誌上あるいはWeb開催となったため、成果発表、研究打ち合わせに計上していた旅費予算を使用することがなかった。最終年度であったので、研究期間の延長手続きを行った。新型コロナウイルスの感染流行状況次第であるが、Web開催の学会が続くようであれば、成果発表の旅費の費目を論文の投稿掲載料等に変更し、2021年度中に全額執行する計画である。
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Dental Materials Journal
巻: 40 ページ: in press
Japanese Dental Science Review
巻: 56 ページ: 155-163
10.1016/j.jdsr.2020.09.005