研究課題/領域番号 |
18K09608
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
菊池 有一郎 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (30410418)
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研究分担者 |
石原 和幸 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (00212910)
柴山 和子 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (60408317)
国分 栄仁 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (70453785)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歯周病原細菌 / Capnocytophaga ochracea / 転写因子 / シグマ因子 / ECFシグマ因子 |
研究実績の概要 |
最初に、Capnocytophaga ochracea (C. ochracea)の病原性発現に重要な役割を果たすと予想される転写因子の変異株およびその相補株の作製を試みた。その候補となる転写因子は、様々な環境変化に対応するECFシグマ因子に決定した。データーベースにより検索すると、C. ochracea ATCC27872のゲノム上にはECFシグマ因子をコードする遺伝子は3種類(Coch_0230, Coch_0529, Coch_1288)存在する。 C. ochracea ATCC27872のゲノムからそれぞれの遺伝子をクローニングし、その遺伝子の途中にテトラサイクリンカセット耐性遺伝子を挿入し、ターゲッティングベクターを構築した。そのベクターをエレクトロポレーション法にて、C. ochracea 内に組み込み、遺伝子の相同組換えを起こさせることで、変異株のセレクションをテトラサイクリン含有血液寒天培地上で行った。だが、3種類のECFシグマ因子すべてについて、テトラサイクリン耐性変異株を得ることができなかった。そこで、薬剤耐性マーカーをテトラサイクリンからエリスロマイシンに変更し、再度ターゲッティングベクターの構築を行った。現在Coch_0230遺伝子のみ、エリスロマイシン耐性遺伝子挿入ベクターの作製に成功している。 また我々は、酸素ストレス消去に関与すると考えられるOxyRタンパクのエリスロマイシン耐性遺伝子挿入変異株の作製には成功している。そこで今年度に、野生株と変異株を用い阻止円形成法にて酸素ストレス感受性試験を行った。その結果、野生株に比べ変異株にて有意に酸素ストレスに対する感受性が増加した。この結果より、C. ochracea OxyRタンパクも他の細菌と同様に酸素ストレス防御に関与することが初めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では本年度中に、C. ochraceaのECFシグマ因子(Coch_0230, Coch_0529, Coch_1288)全てについて、変異株作製に成功している予定であった。だがテトラサイクリン耐性変異株は全ての遺伝子について成功せず、エリスロマイシン耐性変異株の作製に方向転換している。エリスロマイシン耐性変異株にも成功しない結果となれば、C. ochraceaのECFシグマ因子は致死遺伝子であり、その遺伝子を変異させると、生存することができないという推測ができる。また、そうであればC. ochraceaの環境ストレス消去や増殖過程においてECFシグマ因子は重要な役割を果たしている可能性も示唆される。だがそうであれば、変異株作製を出発点とする研究方針を大幅に変更する必要がある。 ECFシグマ因子に関する研究の進展が遅れているため、同じ転写因子であるOxyRタンパクの研究も同時進行し進めている。この転写因子については変異株作製に成功しているので、野生株とともにストレス感受性試験を行って、どの環境ストレスに関与するか決定することが求められる。だが、OxyRの研究はほかの細菌において酸素ストレス消去に関与するという報告が複数あるので、まず最初に酸素ストレス感受性試験を行った。その結果、C. ochraceaのOxyRも酸素ストレス消去に関与する可能性が高まった。 来年度は、ECFシグマ因子の変異株作製の可否を早急に決定し、その結果次第ではECFシグマ因子の研究を一旦中止し、OxyRに関する研究を中心に行うか、もしくは他の研究対象候補となる転写因子タンパクを複数探索し、変異株作製を試みる方向転換の必要性も考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも記載したが、来年度早期にECFシグマ因子の変異株作製の可否を早急に決定したいと考える。ECFシグマ因子の変異株作製に成功した場合、当初の予定通り、以下の2種類の解析を行う予定である。①C. ochraceと早期定着細菌である口腔レンサ球菌との共生について解析する。C. ochraceaとデンタプラーク中の初期定着菌群の中で過酸化水素を産生する口腔レンサ球菌Streptococcus gordonii やStreptococcus sanguinisとの共培養実験系にて、野生株と比較し、変異株の場合の変化の有無について、バイオフィルム形成量をクリスタルバイオレット染色法や共焦点レーザー顕微鏡解析にて測定する。その結果、野生株と比較し転写因子欠損株にてバイオフィルム形成量の低下が認められれば、C. ochracea のECFシグマ因子が過酸化水素を産生する口腔レンサ球菌との共生に重要な役割を果たすことが判明する。 ②C. ochraceaと後期定着細菌である歯周病原細菌との関わりについて解析する。C. ochraceaとレッドコンプレックス細菌を中心とする歯周病原細菌の間に共生および拮抗の関係があるのではないか予想し、次世代シーケンサーを使用したRNA-seqおよびメタゲノム解析にて検証する。 ECFシグマ因子の変異株を得ることができなかった場合には、ECFシグマ因子の代わりにOxyR変異株を使用して上記の実験系①C. ochraceと早期定着細菌である口腔レンサ球菌との共生、②C. ochraceaと後期定着細菌である歯周病原細菌との関わりについて解析を行う予定である。また、OxyR相補株を作製することも並行して進行させる。
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