研究課題/領域番号 |
18K09622
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
菊池 和子 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (40326690)
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研究分担者 |
原田 英光 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (70271210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / iPS細胞 / 骨再生 |
研究実績の概要 |
歯周組織は、常に口腔内の感染にさらされており、慢性的な炎症が惹起されているので、歯周組織の再生には他の組織再生とは異なり、常に炎症の制御が必要とされる。この研究の目的は、昆虫産物A(物質名は秘匿)がもつ独特の治癒促進効果、抗炎症作用、抗菌性に関する科学的エビデンスを確立するとともに、昆虫産物Aをスキャホールドとして活かすことによって、さらにiPS細胞と併用することによって新規の歯槽骨再生技術を考案することである。そこで、初年度の研究計画でまず昆虫産物Aの治療促進効果、組織学的解析、炎症性メディエーターの発現、鎮痛作用を指標に評価する実験系の確立のためのマウス皮膚炎モデルの作製を行った。マウス背側皮膚内にビオスタADを100mg/dayで週2回、合計6回投与し、皮膚炎を惹起させた。その後、皮膚の発赤や潰瘍の状態を3段階にスコアー化してコントロール群と実験群とを経時的に比較することで治療効果を判定する系を確立した。次に、昆虫産物Aをこの皮膚炎モデルに投与してコントロール群と比較したところ、炎症抑制効果を認めた。この結果から、昆虫産物Aが抗炎症効果をもつことが示唆された。現在この炎症抑制効果について、組織学的解析ならびに生化学的な解析を進めている。一方で、ヒトiPS細胞を神経堤様細胞(NCLC)を経由して間葉系幹細胞に分化誘導する系、さらには骨芽細胞に分化させる実験系を確立した。これらの細胞と昆虫産物Aをコートしたハイドロキシアパタイトあるいはβ-TCPとの混合したものをヌードマウス頭部に移植して骨形成の評価を検討している過程である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず今回の研究において昆虫産物Aが抗炎症作用を有することを証明するための皮膚炎症モデルマウスの作製については計画通りに進行している。さらにこれらの実験モデルに対して昆虫産物Aを適応した結果、予測通りに抗炎症結果を得ることができたことは初年度の成果としては順調である。この抗炎症効果についての分子メカニズムについては組織学的解析や生化学的な解析を進めている途中であり、今後十分な成果が期待できる。この昆虫産物Aの応用としてスキャホールドへの適応について現在検討中であり、抗炎症効果の再実験と合わせて実施する予定である。またiPS細胞についてはマウスiPS細胞からヒトiPS細胞を用いた実験への転換を進めているために、間葉系幹細胞への分化誘導、骨芽細胞への分化誘導方法について若干時間を有してしまった。しかし、基本的分化誘導については概ね予定取りに成功しており、今後この実験の再現性についての検証とスキャホールドへの細胞接着等を検討する実験を行う準備を進めている。以上の成果より、進捗状況は概ね良好であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
炎症モデルマウスに対しての昆虫産物A抽出物投与法・投与量の検討について検討を行う。投与法として、凍結乾燥粉末、あるいはさらに重要成分を生成した物を直接塗布するなどの検討を行う。さらにiPS細胞移植に伴うスキャホールド(ハイドキシアパタイトあるいはβ-TCP)へのコーティング作用による細胞の接着、移植効果、抗炎症効果等を検討する予定である。抗炎症効果における分子メカニズムの解明として組織標本を作製しH-E染色、炎症性メディエーター(IL-1β, IL-6, TNFα, MMPs, PGE2, MPO, COX-2など)の免疫染色を行う。治癒促進効果などの指標としてM1マクロファージとM2マクロファージの組織内比率を免疫組織学的に検討する。また培養炎症性細胞に対して昆虫産物Aを加えることでどのような反応が生じるかについても検討する。次にin vitroにおける昆虫産物Aの抗炎症メカニズムを調べるために、培養口腔粘膜上皮細胞を使った実験を行う。炎症性サイトカインにて刺激し、炎症性メディエーターの解析をELISA法で、細胞増殖アッセイや細胞遊走アッセイ細胞内活性酸素(ROS)測定(CellROX染色による)を行う。また歯周病菌を寒天培地に植え付け、その上に様々な濃度の昆虫産物Aを浸み込ませたペーパーディスクをのせ抗菌活性の有無を検討する。さらに骨組織再生能と抗炎症効果を評価するためにヒトiPS細胞由来の NCLC、あるいはNCLC由来間葉系幹細胞、骨芽細胞と昆虫産物A コートスキャホールドの混合物をFLK1-GFP皮膚炎モデルの皮下に移植する。その後、2週間後から10週間後における骨組織の再生状況と炎症反応の変化を観察する。これに関してはμCTを用いて骨再生の経時的形態学的に評価する。また血管新生の組織学的評価や骨基質タンパクの発現などを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に進んでいる。研究費は計画的にかつ効率的に使用したが、抗炎症効果の分子メカニズムの解析についてはいまだ実施には至っていないので、この解析に用いる抗体や分子生物学的等の試薬の購入についての研究費を次年度分に持ち越している。 また動物実験の計画についても今年度に引き続いて実施する予算として持ち越した。 次年度の研究費使用計画についても大部分は分子生物学的解析の試薬の購入、抗体の購入、実験動物の購入等に当てる予定である。
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