本研究ではチタン表面に幹細胞を接着させてインプラント周囲炎および薬剤耐性顎骨壊死(MRONJ)を治療する方法を模索した。 歯科インプラント埋入後5~10年に惹起されるインプラント周囲炎は患者の約半数に起こり喫緊の課題となっている。本研究では間葉系幹細胞のもつ抗炎症作用に着目し、細胞シート付着型インプラントの開発検討を重ねてきた。大動物顎骨欠損モデルを用いた歯根膜細胞シート付着チタンインプラント埋入試験では、約3割程度の成功率で顎骨内に固定できることを示した。組織学的観察では、移植12週後でもインプラント体と周囲骨間の癒着は概ね認められず、歯根膜様組織を含む線維性組織は、天然歯周囲の歯根膜組織に類似した多方向への走行が一部認められた。長期移植では、最長50週間インプラント体が炎症なく顎骨に埋入されていることを確認した。今後本法を臨床応用させるには効率的なインプラント周囲への新生組織誘導が必要不可欠であり、その一歩として今年度はセメント質誘導方法を模索している。 また、以上の結果を応用し、MRONJに対する幹細胞併用療法の検討を今年度は主に行った。MRONJは投薬の副作用により惹起される顎骨壊死であり、重症例に対しチタンプレートを用いた顎骨再建術が行われる。本研究では術後の炎症軽減および治癒促進を目的として骨髄由来間葉系間質細胞(MSC)シートを用いた顎骨再建術を模索した。骨吸収抑制薬の週3回投与によりラットMRONJモデルを作製し、投与開始1週後に下顎骨頬側へチタンプレートと共にラットMSCシート、細胞担体と炎症惹起を目的としてポリグリコール酸シートを移植した。投薬開始7週では、細胞シート移植群は非細胞シート移植群に比べ骨量に変化があることをμCT解析にて、さらに骨壊死領域の割合が減少傾向にあることが組織学的観察にて確認された。今後再現性を確認し臨床応用へ向けた検討を行う。
|