研究実績の概要 |
本研究は、LRP1が制御するMSC細胞遊走機能のメカニズムおよび組織修復に適した微小環境を明らかにすることで、新たな歯槽骨代謝制御システムを開発することを目的としている。令和2年度は、MSCsによる硬組織修復過程でのLRP1とp53の相互関係の検討に加えて、歯根膜幹細胞(PDLSCs)に発現するLRP1の役割を検討した。 これまでに、MSCsにおけるLRP1とp53の関連性を検討し、それぞれ相反する関係にあることが示された。令和2年度に実施したPDLSCsを用いた実験においても、MSCsと同様な結果が得られた。歯根膜細胞に対して、siRNAによってLRP1遺伝子をノックダウンすると、MSCsと同様に、BMP2, BMP4,およびオステオプロテゲリンの発現は減少したが、RANKLは増加する傾向を示した。さらに、PDLSCsに対してLRP1遺伝子をノックダウンすると、その傾向はさらに強くなった。これらの結果は、PDLSCsのLRP1が歯周組織の維持を制御する可能性を示している。 動物実験において、LRP1の発現は、マウス臼歯の抜歯窩修復のみならず、上顎臼歯の矯正移動においても観察された。マウス第一臼歯を前方移動させた時、牽引側の歯根膜中にLRP1陽性細胞が認められた。そして、LRP1遺伝子欠損(KO)マウスと野生型マウスにおける矯正移動にも差が見られた。これらに加え、LRP1KOマウスとp53KOマウスでの骨欠損修復過程におけるスクレロスチン発現もまた、野生型マウスと異なることが明らかになった。 以上の結果から、歯周組織の維持においてPDLSCsに発現するLRP1が重要な役割を担っていることが示唆された。
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