研究実績の概要 |
本研究は,細胞増殖能や分化を制御する重要な生理活性物質であるTGF-β1に着目し,歯根膜細胞,歯髄細胞を用いてEr:YAGレーザーの低出力照射(LLLT)におけるTGF-β1の動態を経時的に比較検討することを目的とし,TGF-β1の活性化に深く関わるMMP,HSPを中心に研究を行い,さらに,レーザー照射によるアポトーシスや細胞増殖に関係すると考えられるCaspase-3やPGE2について調査を行った。 歯根膜細胞において,Er:YAGレーザー照射によりMMP-2はTGF-β1を制御することで硬組織誘導に関与し,MMP-2,-3は細胞増殖を制御することから,創傷治癒に関与する可能性が示唆された。また,レーザー照射によるアポトーシスや細胞増殖にHSP90,COX-2の遺伝子発現が密接に関わっていることが示唆された。さらに,レーザー照射により細胞増殖能が上昇する作用には,Caspase-3の関与が考えられた。しかしながら,Caspase-3がPGE2を介して細胞増殖を誘導させることが報告されているが,レーザー照射によりPGE2の産生量が増加することはなかった。 歯髄細胞(PPU-7細胞)においては,Er:YAGレーザー照射は歯根膜細胞同様,アポトーシスに影響を及ぼしていた。また,レーザー照射による遺伝子発現では,象牙芽細胞の分化マーカーに上昇が認められたが,骨芽細胞および軟骨細胞の分化マーカーは減少傾向にあった。同じ歯髄細胞でもPPU-7細胞とhPulp細胞のレーザー照射による影響が異なることが考えられるため,hPulp細胞のレーザー照射による影響を調べた結果,ALP活性においては,レーザー照射群は7日目に未照射群と比較して上昇傾向が認められるものの有意差は認められず,MTSアッセイにおいては,レーザー照射群において7日目に未照射群と比較して有意な上昇傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従い実験を行い,平成30年度の結果から歯根膜細胞に対するEr:YAGレーザー照射により,MMP-2はTGF-β1を制御することで硬組織誘導に関与し,MMP-2,-3は細胞増殖を制御することから,創傷治癒に関与する可能性が示唆された。また,レーザー照射によるアポトーシスや細胞増殖にHSP90,COX-2が密接に関わっていることが示唆された。一方,歯髄細胞(PPU-7細胞)においても,歯根膜細胞同様,Er:YAGレーザー照射はアポトーシスに影響を及ぼしていることが示唆された。また,レーザー照射による遺伝子発現においては,象牙芽細胞の分化マーカーに上昇が認められたが,骨芽細胞および軟骨細胞の分化マーカーは,減少傾向にあった。 令和元年度は,歯根膜細胞において,Er:YAGレーザー照射によるアポトーシスを誘導しているCaspase-3のインヒビター添加によるMTSアッセイを行った。その結果,細胞増殖能が上昇する作用には,Caspase-3の関与が考えられた。さらに,Caspase-3のPGE2を介しての細胞増殖誘導が考えられることから,レーザー照射によるPGE2産生量についてELISA法により調査した。その結果,PGE2産生量の増加は確認できなかった。一方,歯髄細胞において,PPU-7細胞とhPulp細胞のEr:YAGレーザー照射による影響が異なることが考えられ,hPulp細胞に対するレーザー照射による影響を調べるため,未照射群,レーザー照射群におけるALP活性,MTSアッセイを経時的に比較検討した。その結果,ALP活性において,レーザー照射群は7日目に未照射群と比較して上昇傾向が認められるものの有意差は認められず,MTSアッセイでは,レーザー照射群において7日目に未照射群と比較して有意な上昇傾向が認められた。 以上のことから,おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究結果から歯根膜細胞に対するEr:YAGレーザー照射によってMMP-2はTGF-β1を制御することで硬組織誘導に関与し,MMP-2,-3は細胞増殖を制御することから,創傷治癒に関与する可能性が示唆された。また,レーザー照射によるアポトーシスや細胞増殖にHSP90,COX-2の遺伝子発現が密接に関わっていることが示唆された。アポトーシスを引き起こし,細胞増殖を制御するPGE2産生に深く関わっているCaspase-3に着目し,レーザー照射後のCaspase-3の動態,Caspase-3インヒビター添加後の細胞増殖能を経時的に調査した結果,時間差で細胞増殖能が上昇する作用には,Caspase-3が関与していることが示唆された。さらに,レーザー照射によるPGE2の産生量をELISA法により調査した結果,レーザー照射によるPGE2産生量の増加は認められなかった。令和2年度はレーザー照射によって活性化されるCaspase-3の作用機序が外部経路なのか内部経路なのかを調べるため,それぞれに関与するFas,Baxの遺伝子発現について実験を行う予定である。 一方,歯髄細胞においては,現在までの研究結果からEr:YAGレーザー照射は,歯根膜細胞同様にアポトーシスに影響を及ぼしていることが示唆され,レーザー照射による遺伝子発現では,象牙芽細胞の分化マーカーに上昇が認められたが,骨芽細胞および軟骨細胞の分化マーカーは,減少傾向にあった。また,同じ歯髄細胞でもPPU-7細胞とhPulp細胞のレーザー照射による影響が異なることが考えられるため,hPulp細胞に対する研究を行った。令和2年度は,PPU-7細胞,hPulp細胞において歯根膜細胞同様,レーザー照射後のMMPsインヒビター添加によるALP活性・MTSアッセイ,HSP,COX-2などの各種遺伝子発現を経時的に比較検討する予定である。
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