研究実績の概要 |
本研究では、認知症予防の有望な戦略の一つとされる栄養的アプローチの有用性を、口腔内状況を中心として検討する。具体的には、東北メディカル・メガバンク計画にておける前向きコホート研究に参加した地域一般住民から得られた咬合や義歯使用状況、歯周状態といった歯科データと栄養状態との関連を検討し、さらに認知機能に関連する脳の形態変化との相互関係を調べ、これらの相互関係を横断的に検証することを目的としている。 研究対象集団は東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査(約8万人)および三世代コホート調査(約7万人)の参加者のうち、歯科検診を受診しかつ脳のMRI撮影を受けたものから宮城県内に在住の40歳以上の地域住民4,000人を抽出した。さらに、①歯周病の有無(歯周ポケット長、アタッチメントレベル、プロービング時の出血)、歯数、DMF、咬合接触、義歯使用の有無、②歯科問診および摂取食品アンケートから算出された咀嚼困難度、③3.0TMRI脳画像から、画像処理ソフトウエアを用いて算出された内側側頭部(海馬・扁桃・嗅内野の大部分)の体積、そして④MMSEである。さらにその他、年齢、性、BMI、喫煙、飲酒、および糖尿病、高血圧、脳卒中などの認知機能に影響を及ぼすと考えられる疾病の既往歴等も調整項目として使用可能かを検討した。 その結果、咀嚼困難であるほど栄養摂取に偏りがあることが明らかになった。具体的には、咬合支持域が少ないと炭水化物の摂取が有意に増加し、タンパク質摂取や不飽和脂肪酸の摂取が減少していた。これと同時に、咬合支持域が少ないとBMIや収縮期血圧の上昇といった生理機能の項目の変化も明らかとなった。そしてこれら項目の変化は義歯の使用群では認められなかった。このことから、咬合支持域は健康寿命延伸に関与しており義歯による咬合支持域回復は健康寿命延伸に効果的であることが示唆された。
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