本研究は,金属抗原で刺激した樹状細胞,T細胞,上皮角化細胞間のネットワークを解析することで,歯科用金属アレルギーにおける皮膚・粘膜病変形成の機序を明らかにすることを目的にしている.前年度までの実験で,申請当初に想定していた樹状細胞,ケラチノサイト,T細胞で産生されるCXCR3やCCR5等のケモカインよりも,それらの細胞上のセマフォリン分子とその受容体の変化が大きいことが明らかとなった. そこで特にセマフォリン7Aの発現上昇に着目して解析を進めたところ,ニッケルで72時間刺激した上皮角化細胞上ではセマフォリン7Aの発現がニッケルの容量および刺激時間依存的に増強した.また,ニッケルの刺激によって上皮角化細胞はTNF-αを産生したが,セマフォリン7Aを阻害すると産生が減少した。 ニッケルアレルギーモデルマウス耳介皮膚でのセマフォリン7Aの発現を確認したところ,特に上皮の外層で発現の増強がみられた.またアレルギーを惹起させる前にsiRNAを用いて耳介皮膚でのセマフォリン7Aの発現を阻害しておくと,耳介の腫脹は著しく減少した.さらにアレルギーの症状を呈している皮膚をリアルタイムPCR法で解析したところ,CCL20およびCXCL1の発現増強を認めた.CCL20はマクロファージ炎症タンパク質でT細胞や樹状細胞を炎症の場へ遊走させるケモカインである.一方CXCL1はマクロファージや上皮細胞が産生し好中球遊走性のケモカインである. 以上の結果から,セマフォリン7Aはニッケルに対するアレルギー反応,特にエフェクター期の反応に不可欠であると考えられる.セマフォリン7Aとα1β1インテグリンの相互作用は,多くの皮膚疾患において炎症を促進することから,この相互作用は金属アレルギーの治療標的にもなりうると考えられる.
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