口腔内の歯冠修復材料は,常に熱変化の刺激にさらされている.近年オールセラッククラウンの普及伴い,高強度のセラミックスが多く開発されているが,セラミックスクラウンの熱膨張係数は歯質よりも低く,また長期的予後について評価が確立されているメタルクラウンは歯質よりも熱膨張係数が高い.つまり,歯質の熱膨張係数と比較して,メタルとセラミックスではそれぞれ大小異なる熱膨張係数を有することより,修復材料と歯質との接着界面に発生する熱応力の挙動が全く異なる事が予想される.さらに界面破壊および辺縁漏洩による歯髄への影響を左右する危険性がある.各種セラミッククラウンを装着した歯質において,有限要素解析により,熱刺激がセラミッククラウンと歯牙にどのような影響を及ぼすか,またどのような問題点が生じるかを,応力と歪みで表される力学的側面から明らかにすることを目的とした. 有限要素解析では,各種熱膨張係数の異なる,金属,コンポジットレジン,ジルコニアのクラウンをレジンセメントで装着した支台歯の3次元モデルを構築した.過渡伝熱解析を用いて体温の37℃から55℃の加熱および5℃の急冷に晒した際の,熱変化を算出し,さらにその際に生じる主応力を評価した.熱変化は熱伝導率の影響を大きく受け,クラウンやセメントに生じる主応力は熱膨張率と各材料のヤング率の影響を受けた.故に,熱膨張率の影響のみで熱応力を予測する事は困難であり,クラウンや支台歯,それぞれの組み合わせの違いが熱応力に影響する事を示唆しており,熱応力解析は歯冠修復治療の長期予後を見据えた材料選択や補綴設計に有効であると考えられた.
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