顎骨骨髄由来間葉系幹細胞(MBMSC)は歯科医にとって採取アプローチが容易で、他の幹細胞と同等かそれ以上の骨分化能を有し、顎骨増生を図るために有望なセルソースと考えられるが、現状ではMBMSC移植による骨増生効果にはバラツキが大きく、治療効果を一定にコントロールすることが出来ない。MBMSCによる骨増生治療を成功させるためには、移植前に細胞の持つ能力を把握することが重要である。 前年度の研究成果により、顎骨骨髄由来MSC(MBMSC)は腸骨骨髄由来MSC(IBMSC)に比べ、脂肪分化能が明らかに低いことが判明している。そこで、今年度はMBMSCにおいて脂肪分化が抑制される分子メカニズムをさらに詳細に評価した。MBMSCは脂肪分化のマスター転写因子であるPPARγ、C/EBPα発現が抑制され、これらの転写因子発現を制御するC/EBPδの発現も有意に抑制されていることが明らかとなった。また、MBMSCはグルコーストランスポーターのGLUT1、GLUT4の発現が抑制され、細胞内へのグルコースの取り込みもIBMSCに比べ有意に抑制されていることが見出された。以上の結果から、MBMSCは未分化状態から脂肪前駆細胞への分化、さらに脂肪前駆細胞から成熟脂肪細胞への最終分化も抑制されることが明らかとなった。また、MBMSCの特性をさらに詳細に解析するために、細胞内に発現するマイクロRNA(miRNA)発現解析をおこなった結果、MBMSCにおいて脂肪分化に関連する遺伝子を制御するmiRNAが数種類高発現することが判明し、現在、それらのmiRNAの機能解析を実施中である。 また、当該年度は、抗菌性ペプチドLL-37の新規作用としてリンパ管新生促進作用を見出し、植物由来成分による間葉系幹細胞の分化制御作用、およびリンパ管新生促進作用についても明らかにした。
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