研究課題
腫瘍血管は,がんに栄養や酸素を供給し,がんの増大や転移に重要である.腫瘍血管を裏打ちする腫瘍血管内皮細胞は,様々な異常性を示し,がんの悪性化に寄与することがわかってきた.最近,われわれは腫瘍血管内皮細胞がBiglycanを分泌してがん細胞の血管内侵入を促進し,転移促進に関与することを報告した.しかし,がん細胞の血管内侵入後における腫瘍血管内皮細胞の役割については不明である.そこで,がん細胞が血管内で細胞塊を形成すること,腫瘍血管内皮細胞に接着しやすいこと,また腫瘍血管内皮細胞が様々な接着因子や増殖因子を高く発現することなど,これまで得られてきた腫瘍血管内皮細胞の異常性に関する知見をふまえ,がん細胞が原発巣から転移先臓器へと移動する血液中において,腫瘍血管内皮細胞ががん細胞と接着することで周囲のストレスから保護し,転移巣形成に寄与すると仮説を立てた.本研究では,腫瘍血管内皮細胞の転移における様々な役割を分子基盤とともに解明することを目的とした.昨年度は,がん細胞と血管内皮細胞の細胞塊形成について,非接着性プレート上で様々ながん細胞と血管内皮細胞を共培養して観察し,スフェロイドの局在に違いがあることを見出した.今年度は,非接着プレート上で培養して作製したスフェロイドの性質を解析した.腫瘍血管内皮細胞とがん細胞のスフェロイドでは,正常血管内皮細胞とのスフェロイドに比べてがん細胞の生存能・増殖能が高かった.さらに,作製したスフェロイドをマウス尾静脈から投与したところ,転移に違いが見られた.腫瘍血管内皮細胞とがん細胞がスフェロイド形成することで,がん細胞の性質に変化があることが示唆された.現在,スフェロイド形成させた後にフローサイトメトリーでがん細胞ならびに血管内皮細胞をそれぞれ分離し,それらの遺伝子発現をPCR arrayならびにDNA microarrayにて検討中である.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って概ね順調に研究が進んでいるため.スフェロイドの生物学的機能についてin vitroで検討し,さらにin vivoでの転移も評価できた.分子メカニズムを明らかにするためのアレイ解析も進めている.
腫瘍血管内皮細胞が発現する分子で,スフェロイド形成や転移促進に関与する分子を同定する.具体的には,PCR arrayやDNA microarrayにより,血管内皮細胞側で発現している分子を同定する.さらに,スフェロイド形成によるがん細胞側で生じる遺伝子やパスウェイの変化をIPAを用いて解析する.ヒト腫瘍組織においても実際に同様の所見が得られるか,様々な癌種のがん患者手術摘出標本を用いて,上記で着目した分子の血管における発現や局在を組織学的に検討し,さらに臨床病理学的に検討する.
アレイ解析のためのサンプル準備に時間を要したため.今年度PCR arrayならびにDNA microarrayはすでに進めている.
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