研究課題/領域番号 |
18K09722
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
宮脇 卓也 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (00219825)
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研究分担者 |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 講師 (30423320)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネル / 炎症性疼痛 / 疼痛制御作用 / 抗炎症作用 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネル(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channels: HCNチャネル)は膜電位の過分極により活性され内向き電流を発生させる電位依存性チャネルであるが、その阻害薬は神経障害性疼痛の治療薬の候補として期待されている。しかし、その作用機序については十分に解明されていない。そこで、本研究では、疼痛制御作用機序を解明することを目的とした。 2018年度は、動物実験モデルを用いてHCNチャネル阻害薬(ivabradine)の炎症性疼痛に対する制御効果および抗炎症作用を検証した。その結果、カラゲニンによる炎症性疼痛モデルにおいて、ivabradineは用量依存的に抑制効果を示した。 2019年度は、2018年度の動物実験の追加実験として、炎症性疼痛モデルにおける炎症性疼痛に対して、ivabradine以外のHCNチャネル阻害薬であるZD7288も同様の効果があることを確認し、これらのHCNチャネル阻害薬による炎症性疼痛の制御はHCNチャネルを介した効果であることを証明した。さらに、HCNチャネル阻害薬の抗炎症作用をin vitroで検証するため、培養したマウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)をLPSで刺激した後に、HCNチャネル阻害薬であるivabradineまたはZD7288を添加し、炎症性メディエータであるTNFαおよびIL-6の産生への影響を評価した。その結果、ivabradineおよびZD7288はこれらの炎症性メディエータの産生を抑制した。 以上の結果より、HCNチャネル阻害薬であるivabradineおよびZD7288は炎症性疼痛および炎症反応に対して抑制効果があり、その作用はHCNチャネルを介している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
補助事業期間中の研究実施計画では、1)HCNチャネル阻害薬の抗炎症作用をin vitro実験で検証、2)動物実験によるHCNチャネル阻害薬の疼痛制御作用および抗炎症作用の検証、3)抗炎症作用および疼痛制御作用に係わるHCNチャネルサブタイプの同定、が計画されたが、2018年度は2)の動物実験を実施し、HCNチャネル阻害薬であるivabradineに炎症性疼痛に対して制御作用があることをin vivo実験で証明し、ほぼ計画どおり遂行できた。さらに2019年度は、2)の追加実験として、別のHCNチャネル阻害薬であるZD7288を用いてivabradineと同様の結果が得られた。さらに、1)の培養細胞を用いたin vitro実験を行い、HCNチャネル阻害薬であるivabradineおよびZD7288が、抗炎症作用を有していること証明した。また、その作用がHCNチャネルを介していることを示唆するところまで行うことができた。2020年度は、3)を実施する予定であり、全体として順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、細胞培養を用いたin vitro実験で、抗炎症作用に係わるHCNチャネルサブタイプの同定を行う。HCNチャネルにはHCN1、HCN2、HCN3、およびHCN4の4つのサブタイプがあるが、これらのすべてのサブタイプは中枢神経および末梢神経に分布している。その中で特にHCN2が疼痛制御に関与していると考えられているが、どのHCNチャネルサブタイプが炎症または抗炎症に関与しているかは不明である。そこで、まずこれまでの研究で抗炎症が認められた培養細胞(RAW264.7細胞)を対象に、どのHCNチャネルサブタイプが炎症細胞に局在しているかを、分子生物学的にそれぞれのHCNチャネルサブタイプのmRNAの発現量をリアルタイムPCR法を用いて評価する。さらに、LPS刺激による影響、およびHCNチャネル阻害薬(ivabradineまたはZD7288)の添加によって、それらがどのような変化を示すのかを調べる。また、HCNチャネルサブタイプに特異的に作動作用のあるforskolinまたはlamotrigineの影響も検証する。これらの研究によって、これまで知られていなかったHCNチャネルサブタイプの炎症に係わる生理学的な役割についても解明できるのではないかと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの実験の実施について当初の見積額よりも安価に実施することができたが、次年度、分子生物学的実験に費用を要することが判明しているため、当該費用へ支出する予定である。
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