研究課題/領域番号 |
18K09731
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小柳 裕子 日本大学, 歯学部, 助教 (20609771)
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研究分担者 |
小林 真之 日本大学, 歯学部, 教授 (00300830)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | propofol / alpha-rhythm / insular cortex / VPMpc / thalamocortical input |
研究実績の概要 |
プロポフォール誘発性アルファ周波数帯の発生に対する視床-皮質中継ニューロンの寄与を検討した。 実験には4週齢のVGAT-Venusラットを用い,イソフルラン吸入麻酔下で側頭部を開頭(直径約1 mm)し,視床後内側腹側核小細胞部(VPMpc)へ到達するためのマイクロシリンジ刺入位置を検討した。インク注入後イソフルラン5%吸入下で断頭し,脳を取り出したのち,マイクロスライサーを用いて急性脳スライス標本を作製し,インク注入部位の確認を行った。その結果,オス・メスともbregmaより-3.6 mm,側方1.1 mm,深さ6.4 mmの位置で5 μL注入した場合にVPMpcに局所注入を行えることが分かった。 次に,同様の方法を用いてマイクロシリンジにてpAAV5.CAG.hChR2(H134R)-mCherry.WPRE.SV40をVPMpcに局所注入し,約4週間の回復期間ののち,島皮質を含む急性脳スライス標本を作製し,蛍光観察下で島皮質におけるVPMpcからのニューロン投射を確認した。その結果,島皮質のうち顆粒層から不全顆粒層にかけて,II/III層深部を中心にVPMpcからの投射があることがわかった。さらに,島皮質ニューロンの発火応答に対する視床―皮質入力の影響を検討するため,島皮質錐体細胞からホールセル記録を行い,光刺激によってChR2発現ニューロンのみを特異的に発火させた際の錐体細胞の発火応答を検討した。その結果,錐体細胞はChR2発現VPMpcニューロンからの興奮性入力を強く受けており,VPMpcニューロンの発火に呼応して錐体細胞から活動電位または興奮性シナプス後電位が記録されることが分かった。プロポフォール(10 μM)灌流投与により,光刺激によるVPMpcニューロン活性化に同期した島皮質錐体細胞の律動応答は,仮説に反して変化を示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VPMpcニューロンにChR2を発現したラットの作製に成功し,島皮質ニューロンにおいて光刺激誘発性の興奮性シナプス後電位の記録に成功した。島皮質ニューロンはVPMpcからの興奮性入力を強力に受けており,島皮質ニューロンの活性化にVPMpcからの入力は大きな役割を果たしていることが示唆された。島皮質ニューロンはVPMpcからの入力に呼応して堅固な律動性応答を示すため,プロポフォール灌流投与を行っても,更なる時間的精細な律動性応答は観察されなかった。このことは当初の仮説に反した結果であったが,早急に実験計画を変更し,本研究計画で作製および記録に成功した動物モデルを利用したVPMpc-島皮質入力の解明を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
実験を行う過程で,光刺激により視床―皮質ニューロンを特異的に刺激した際に,島皮質において興奮性シナプス後電流(eEPSCs)は興奮性である錐体細胞から記録できるだけでなく,抑制性介在ニューロンからも記録できることを見出した。すなわち,島皮質におけるVPMpcからの投射は,興奮性錐体細胞および抑制性介在ニューロンの両方に存在する可能性が浮上した。しかし,これらの興奮性入力はVPMpcからの直接の入力によるものなのか,それとも島皮質内の局所神経回路を介したものなのかは不明である。また,興奮性錐体細胞と抑制性介在ニューロンで視床からの入力強度に違いがあるかどうかは不明である。よって次年度以降は計画を一部変更し,島皮質ニューロンサブタイプ別に視床―皮質入力について詳細な検討を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の仮説に反した結果に伴い,VPMpc-島皮質経路の興奮性入力を起源とした島皮質ニューロンの律動性応答に対するプロポフォールの作用を検討するための実験を中断し実験計画を一部変更したため,次年度使用額が生じた。生じた使用額は,平成31年度助成金と合わせて,本研究計画で作製および記録に成功した動物モデルを用いた島皮質ニューロンサブタイプ別の視床―皮質入力を検討するための電気生理実験において消耗品費として使用する。
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