研究課題
真核細胞は、増殖因子や栄養の欠乏、ウイルス感染、突然の温度上昇などのさまざまな状況の変化に応答してタンパク質合成全体の速度を減少させる。がん細胞 においては正常細胞とは異なった表現型がみられる。アデノウイルスはこのような宿主反応に対抗するため、二つの異なった方法でウイルス遺伝子発現を増強していることが明らかになった。一つはE4 orf6を介した3’UTRのARE配列依存的なmRNA半減期の延長であり、もう一つはtripartite readerと呼ばれる5’UTRによるウイルスタンパク質の翻訳活性化である。これらにより宿主細胞のタンパク質生成が減少している環境においても自身の構造タンパク質を優先的かつ高効率な状態で発現する(宿主細胞に発現させる)ことができる。がん幹細胞のような細胞では正常細胞に比較してAREを介したmRNAの分解が優位に抑制されていたので、我々はアデノウイルスE1Aの下流にAREを付与した腫瘍溶解ウイルスを作成した。このウイルスは腫瘍細胞のみを標的として細胞融解を生じさせる性質を有していた。また、5’ 非翻訳領域にmRNAの二次構造を変化させるような断片化したマイコプラズマDNAをルシフェラーゼ・リポーターの5’ 非翻訳領域にクローニングしたライブラリーを構築し、がん細胞に導入・発現解析を行った。現在まで375個のクローンの発現解析を終了しているが、細胞腫により発現が大きく異なる数種のクローンを確定することができた。Real Time PCRの結果からmRNAの転写量に大きな変動は見られず、翻訳過程における何らかの変化が原因であると考えられた。マイクロアレイ解析の結果はRNAヘリカーゼ様遺伝子の関与を示唆するものであった。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancers (Basel).
巻: 12 ページ: 1-13
10.3390/cancers12051205.