私たちは、これまでに放射線照射後に生じるG2アレスト動態が、放射線照射後の細胞生存においてひとつのキーであることを見出してきた。そこで本研究課題では、細胞周期を生細胞にて可視化し得るFucciを導入した癌細胞と化合物ライブラリーを組み合わせることで、放射線誘導性細胞周期動態を修飾し得る化合物の同定を目指した。その結果、化合物Xが放射線照射後のG2アレストを遷延させ、放射線増感に寄与し得る薬剤として期待されたが、ライブラリーとは異なる市販の化合物Xでは再現性が得ることができなかった。ライブラリーと市販薬間の構造的な違いがあることも考え、構造解析を受託することも検討したが、構造が大きく異なる場合には、これ以上追及することは難しいため、化合物Xについては断念することとなった。 私たちはこれまでp53の変異などにより、p53が機能していない癌細胞を用いることで放射線照射後のG2アレスト動態に着目して検討を進めてきたが、一部の癌ではp53に変異がなく、機能している。そうした細胞では、放射線照射後には、G2アレストに加え、G1アレストも発生し、より複雑な細胞周期動態を示すことが考えられる。そこでp53 functionalな癌への新たな増感戦略を考案するために、野生型p53を有した頭頸部癌細胞にFucciを導入することで、放射線照射後の細胞周期動態におけるp53の影響の可視化を試みた。その結果、G1期で照射された細胞において顕著なG1アレストが生じたが、同じG1期細胞の中でもすぐにG1アレストに移行する細胞も存在すれば、一度細胞周期を回転した後にG1アレストが生じる細胞も存在した。S/G2期で照射された細胞では、概ね一時的にG2アレストが生じ、その後に顕著なG1アレストが生じることが示された。今後は、こうした動態の細胞生存における役割を明らかにし、新規増感法を創出したいと考えている。
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