唾液腺悪性腫瘍の一つである腺様嚢胞癌は、強い局所浸潤能と肺をはじめとした遠隔転移能を有するが、反面、発育が緩慢なものも多い。よって、担癌状態で比較的長期に生存する患者も少なくないが、やはり現在の所、その治療は外科的切除に頼るしかなく、他にエビデンスが確立された治療法は無い。本研究では研究代表者が一貫して追求してきた分子であるID2をターゲットにし、新しい唾液腺癌治療の開発を行った。 研究機関における実績を順に示す。唾液腺腫瘍細胞を用い、これにID2 antisense vectorを導入し、増殖および浸潤能における影響を確認した。ID2の発現抑制により、増殖および浸潤能ともに有意に抑制された。引き続き、ID2 antisense vector導入唾液腺腫瘍細胞を使用して得られる増殖および浸潤能抑制効果の詳細なメカニズムをin vitroにて解析した。これら悪性形質発現の抑制には、c-mycの発現抑制やp21、p27などの細胞周期関連タンパクの発現亢進などが関与していた。また、ID2抑制によるMMP2発現の有意な抑制とともに、E-cadherin発現の有意な亢進が影響していることも明らかとなった。その他のMMPファミリーであるMMP9や、CadherinファミリーであるN-cadherinなどの確認も行い、MMP9はほぼMMP2と同様の働きをし、N-cadherinに関してはE-cadherinとは逆の発現パターンを示すことを明らかにした。 以上のことより、ID2の発現は唾液腺腫瘍細胞において、細胞周期関連タンパクやMMPファミリー、接着分子の発現に関与し、細胞の増殖浸潤能に影響を与えていることが明らかとなた。
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