研究課題/領域番号 |
18K09751
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
藤田 茂之 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (50228996)
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研究分担者 |
東條 格 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (70405439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 智歯抜歯 / 舌神経損傷 / 神経断端種 / アロデイニア / 人工神経 / 静脈被覆 |
研究実績の概要 |
歯科口腔外科の臨床において最も重要な処置として下顎智歯抜歯術がある。下顎智歯の抜歯時に1%未満の低い確率ではあるが発生している知覚神経障害の一つに舌神経障害が挙げられる。その内容には、発症しても自然治癒が見込まれる軽症である舌神経障害から、一生涯の間、症状が持続する重篤な舌神経障害の症例まで幅が広い分布があるのが認識されている。重篤な症例においては、味覚、温度感覚、知覚の脱出が生じ日常生活において精神的にも大きなダメージを受けて著しいQOLの低下を惹起する症例も散見されて今日において医原性病変として社会問題化している。既に約20年前から欧米では正確な舌神経障害の程度を把握する臨床診断法の開発がなされて、自然治癒不能と考えられる重篤な舌神経障害症例に対しては、顕微鏡視下手術で色々な人工材料を用いた舌神経修復術が施行されてきた。わが国では、2017年に遅ればせながら人工神経材料が認可されたが、未だにこの手術の実施施設が非常に少ない。我々は、20年前から140症例の重篤な舌神経損傷患者に対して外頚静脈片を神経吻合部に被覆する我々独自の顕微鏡視下手術で舌神経修復術を施行してきた。人工神経が認可されてからはこの人工材料を使用してきた。また重篤な舌神経障害症例で、舌神経修復術を施行した症例の内、5症例の舌神経吻合部位の変性した舌神経断端の組織から抽出したcDNAを用いて、マイクロアレイ解析を行った結果、損傷のない正常な舌神経から抽出したcDNAの4倍以上の高発現を認めた遺伝子を20種を同定した。これらの20 種の遺伝子によって翻訳されるタンパク質に特異的な抗体を用いて切除した約40症例の損傷を受けた舌神経組織の標本組織を免疫組織学的に解析した。また他方では、臨床経過観察の結果と、免疫組織反応の結果との相関性において予後良好な症例に比較的多く分布する特定の複数のタンパク質を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
理由 手術時に切除した断端神経腫から抽出したcDNAマイクロアレイ解析を行った結果、損傷のない舌神経の4倍以上の高発現を認めた遺伝子を20種同定し、これら遺伝子によって翻訳されるタンパク質に特異的な抗体を用いて、特に著明に増加した5種類のたんぱく質に対する抗体を用いて切除した断端神経腫の標本組織を免疫組織学的に解析し予後良好な症例に多く分布するタンパク質を同定した。ところが、コロナ禍の影響で、手術施行した患者をリコールして臨床的に術後の回復の評価を行う事が困難になった為に免疫組織学的な所見と臨床経過を相互的に突き合せるこの研究は不可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
手術時に切除した断端神経腫から抽出したcDNAマイクロアレイ解析を行った結果、損傷のない舌神経の4倍以上の高発現を認めた遺伝子を20種同定し、これら遺伝子によって翻訳されるタンパク質に特異的な抗体を用いて、切除した断端神経腫の標本組織を免疫組織学的に解析し予後良好な症例に多く分布するタンパク質を同定した。コロナ禍の影響で、手術後の患者をリコールして臨床的な回復度の評価結果を行う事が困難になったので一旦同定したたんぱくを公表するところで論文に纏めあげる努力している。現在、大幅に研究方針を変更し人工神経を用いて舌神経修復術を施行した症例と静脈被覆した舌神経修復術間の術後1年から3年間の予後の差異、更には臨床歯科医師にとって最も重要な初期診断方法、つまり、自然治癒が見込まれる軽症の舌神経障害なのか、もしくは一生涯重篤な症状が持続しうる舌神経障害症例であるのかを初期診断時点で鑑別できる診断法を、自験症例180症例の分析によって割り出すべく努力している。
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次年度使用額が生じた理由 |
下顎智歯抜歯後に重篤な舌神経障害を受けた為に、人工神経を用いて舌神経修復術を施行した症例と、静脈被覆し舌神経修復術を施行した症例間の術後1年から3年間の予後の差異、更には臨床歯科医師にとって最も重要な舌神経障害程度の初期診断方法、つまり、自然治癒が見込まれる軽症の舌神経障害であるのか、もしくは一生涯重篤な症状が持続しうる舌神経障害症例であるのかを受傷初期の時点で鑑別できる診断法を、自験症例180症例の分析を行い適切な診断法を開発する計画である。
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