研究課題/領域番号 |
18K09757
|
研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
小松 浩一郎 鶴見大学, 歯学部, 准教授 (60153665)
|
研究分担者 |
出野 尚 鶴見大学, 歯学部, 助教 (40435699)
米澤 智洋 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10433715)
中島 和久 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90252692)
江面 陽一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (50333456)
二藤 彰 鶴見大学, 歯学部, 教授 (00240747)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アネキシンノックアウト / ehthesis / 石灰化 / うつ病様行動 / 末梢と中枢 |
研究実績の概要 |
アネキシンA5(Anxa5)KOマウスでは腱・靭帯の骨付着部(enthesis)で骨の増大が起きたことから、Anxa5は線維軟骨細胞の石灰化を負に制御する可能性が示唆された(Shimada et al., 2018)。一方、同じマウスがうつ病様行動も示す。Anxa5がenthesisを含む末梢と中枢で高発現することから、両表現型の発症が相互に関係する可能性、また両表現型が独立に起こる可能性があると仮説をたてた。本研究の目的はこの仮説を検証することである。 本年度は、1)KOマウスへAnxa5発現AAVベクター導入によって表現型が改善するかを調べるため予備的にGFP恒常的発現AAVベクターをenthesisへ局所注射した。しかし局所のGFP蛍光は微弱であったことから、導入効率が低いと考えられた。現在、AAVベクターでなくAnxa5リコンビナントタンパクの使用へ変更を考えている。 2)うつ病様行動を調べるために尾懸垂試験と強制水泳試験を行ったところ、KOマウスではうつ病様行動を示すことが確認された。また、新たなロタロッド試験の結果からAnxa5欠損が運動調整機能や疲労耐性を低下させることが示唆された。 3)Anxa5局在をAnxa5+/-マウス脳切片のLacZ染色像は大脳皮質、視床、視床下部、第三脳室と側脳室の上衣細胞、小脳にLacZ陽性細胞が認められた。2と3の結果から、うつ病様行動や運動機能の低下は中枢における特定の細胞からのAnxa5欠損に関係することが示唆された。 4)enthesisでの骨の増大メカニズムを調べる目的で培養細胞のAnxa5ノックダウンによって石灰化マーカー遺伝子を解析したところ、軟骨細胞と腱細胞でALP発現の増加及びANK発現の低下、ENPP1発現は軟骨細胞で低下、腱細胞と骨芽細胞では増加が認められた。KOマウスenthesis組織はALP陽性細胞の増大、ANK陽性細胞の減少、ENPP1陽性細胞の増加の傾向を示した。4の結果から、enthesisにおけるAnxa5の石灰化制御にはピロリン酸制御因子が介在する可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1.Anxa5KOマウスの表現型(うつ病様行動とAnxa5局在)の解析は本年の計画通り進んだ:a)KOマウスのうつ病様行動を確認するために、尾懸垂試験と強制水泳試験を20-22週齢と8-9週齢のマウスを用い繰り返し行った。両試験共に解析結果は同じ結論であり、KOマウスではうつ病様行動を示すことが確認された。また、新たに、げっ歯類の運動協調性や筋疲労耐性に対する薬物、脳障害、疾病の影響を検証できるロタロッド試験を導入した。26-28週齢と8-9週齢のマウスを用い繰り返し行った試験の解析から、運動協調性や疲労耐性に対するAnxa5欠損の影響に関する考察が可能となった。b)Anxa5局在 Anxa5ヘテロマウス脳切片を用いLacZ陽性部位の観察およびWTとKOマウス脳切片を用いAnxa5免疫染色を行い、Anxa5の局在の対応まで進んだ。 2.Anxa5発現AAVベクターによるレスキュー実験は本年度計画したが、至っていない:a)Anxa5あるいはGFPの恒常的発現AAVベクター の作製;b)Anxa5KOマウス培養細胞でGFP恒常的発現AAVベクターの導入効率を調べたがこの効率は低かった。c)マウスenthesisへ局所注射法を検討し、予備実験としてGFP恒常的発現AAVベクターのenthesis局所への導入効率を調べたがこの効率が低いことが判明した。d)したがって、本年度計画していたレスキュー実験に至っていない。現在、AAVベクターでなくAnxa5リコンビナントタンパクへの使用へ変更を検討している。 3.enthesisにおけるAnxa5の石灰化制御メカニズムの解析と成果の発表は計画通り進んだ:マウス培養細胞のAnxa5ノックダウンによる石灰化のマーカー遺伝子発現の解析と、KOマウスのenthesisにおけるALP,ANK,ENPP1陽性細胞の解析が進み、enthesisにおけるAnxa5の石灰化制御メカニズムが考察できた。更に成果を学会(Ideno et al., 2018 )および学術雑誌に発表した(Shimada et al., 2018)。
|
今後の研究の推進方策 |
新年度(2019年度)は、実施が遅れた1について重点的に研究を推進していく。 1.観察された表現型がAnxa5欠損によるのかを確認する目的で、KOマウスへのレスキュー実験を計画した。しかし、昨年Anxa5発現AAVベクターの有効性が確証できなかったので、Anxa5リコンビナントタンパクの使用への切換えを検討する。 2.a) 昨年度実施した行動実験のリピート実験を行い、再現性を確認する。更に最近、新たにopen field行動ビデオ録画法を試みた。この試験法により、動物の活動性に及ぼすAnxa5 の影響が解析できる点で興味が持たれるところである。b) 昨年度実施したAnxa5免疫染色のリピート実験を行い、再現性を確認する。 3.新年度計画の免疫染色は予定通り行う:Anxa5KOマウスのenthesisでの過剰石灰化による可動域の変化による痛み(?)から脳が活性化しているかどうかを調べる目的で、c-FOSやASIC1aの発現を免疫組織化学によって解析する。もし脳の活性化が認められれば、うつ病様行動との関連性について更に追及していく。 4.新年度shAnxa5発現AAVベクターによるノックダウンを計画していたが、1で書いたようにshAnxa5発現AAVベクターの導入効率も低い可能性が高い。したがって、shAnxa5 によるノックダウンを検討することへ切り替える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Anxa5発現AAVベクター導入の目的でGFP恒常的発現AAVベクターを用い予備的に検討したところ、細胞への導入効率が低いことが判明した。 このため、AAVベクターの作製を途中で中止、また計画していたレスキュー実験にも至らなかった。その結果、その計画実施に割り当てた予算が一部余ったのが、次年度使用が生じた主たる理由である。 その次年度使用分は新年度分請求額と合わせAnxa5リコンビナントタンパクの購入費用へあてる計画である。
|