研究課題/領域番号 |
18K09768
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
谷本 圭司 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (90335688)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低酸素応答 / 転写因子 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
本申請研究では,治療抵抗性を示す口腔がんなどに対する新しい抗がん戦略として,低酸素環境下で誘導され, DNA損傷応答やアポトーシスを司る転写因子DEC1およびDEC2の抗がん分子標的としての可能性を検討するとともに,その制御分子機構を明らかにし,制御化合物(薬)のスクリーニングまで展開することを目的とする。すなわち,転写因子DEC応答配列を用いたレポーターによるスクリーニング実験系を確立し,siRNAライブラリーを用いたDEC制御遺伝子群の同定および機能解析,さらに,同実験系を用いたDEC制御化合物(薬)スクリーニングまで応用展開し,将来的な治療法(薬)開発を目指している。 これまでに,スクリーニング実験系の確立を目標に,DEC1やDEC2により抑制されるDNA損傷応答遺伝子プロモーターの中からMLH1遺伝子プロモーターを選び,ルシフェラーゼおよびGFPレポーターを作製し,いくつかのがん細胞株を用いて,DEC1やDEC2の応答性,特異性の確認をした。現在,作製したレポーターをHSC2口 腔がん細胞に安定遺伝子導入し,FACSによるセルソーティング,レポーター実験による活性確認を行い応答性の高い細胞クローンの選定作業中である。さらに,ゲノム編集 (TALEN)を用いて,内在性DEC1およびDEC2にGFP遺伝子を組み込んで,蛍光タンパク融合DEC発現細胞の作製を進めている。一方,平行して行なっている研究プロジェクトから,低線量率放射線照射により,AURKB遺伝子発現が大きく低下することを見出した。更なる検討により低酸素環境下においてもAURKB遺伝子発現が大きく低下することを確認し,低線量率放射線の作用と低酸素シグナルの下流で転写抑制因子DECが機能している可能性を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DEC応答配列レポーター作製,およびそれらの安定遺伝子導入細胞株の作製は順調に進めていたが,安定遺伝子導入株の作製において,応答性の高い細胞株の検証過程に時間を要している。今年度はそれらを用いた,スクリーニング実験を一刻も早く開始する予定であり,注力している。また,ゲノム編集(TALEN)を用いて,内在性DEC1およびDEC2に GFP遺伝子を組み込んで,蛍光タンパク融合DEC発現細胞の作製する過程においても,DEC2ターゲティングプラスミドベクター作製にも時間を要しているので,早急に進めている。一方で,関連する興味深い遺伝子制御現象を見出したので,合わせて解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後,作製したレポーターをHSC2のみならず,その他の口腔がん細胞や他種のがん細胞,KDなどの正常細胞に安定遺伝子導入し,FACSによるセルソーティング, レポーター実験による活性確認を行い応答性の高い細胞クローンを製する。同時に,TALENを用いたDECレポーター細胞などを並行して作製する。 次に,今年度中に,作製したうち最も反応性の高い細胞クローンを96ウェルプレートに播種した後,所属研究所所有のヒトゲノムsiRNAライブラリーを導入し,細胞を通常酸素または低酸素環境下にて培養する。その後,レポーター活性をOpera Phenixにて測定して,DEC制御活性に影響を与える遺伝子群を同定する。 並行して,上記のスクリーニングにて同定された遺伝子群から,反応性上位の遺伝子に関しては,同定遺伝子siRNAによるDEC制御活性を個別に検証し,また, 様々ながん細胞株(口腔,肺,乳がんなど)を用いて,その普遍性,特異性を評価する。また,それらがん細胞の増殖能,浸潤能,遊走能,放射線や抗がん剤感 受性などに関して,同定遺伝子siRNAによる影響を評価し,さらに,それらの機能発現にDECが必要か,DEC抑制細胞を用いて検討し,その分子標的としての重要 性検討を行う。さらに,DEC制御分子としての重要性が示された分子に関しては,その機能解析も行う,siRNAによる機能抑制に加えて,高発現細胞を作製し,細 胞機能に与える影響を上記同様検討すると共に,RNAseqなどによりその機能を網羅的に解析し,同分子,DEC経路の抑制が細胞,生体に与える影響を予測する。
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