研究課題/領域番号 |
18K09778
|
研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (50256989)
|
研究分担者 |
辺見 卓男 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (20814883)
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
荘司 洋文 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (90235713)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 病理診断 / 口腔癌 / 扁平上皮癌 / 早期悪性病変 / 異型上皮 / 免疫組織化学 / 変異誘発モデル |
研究実績の概要 |
口腔癌(口腔粘膜の扁平上皮癌)の病理診断において、確定診断となる組織診は侵襲性が高く、組織採取時の刺激が病変進展の促進や転移を引き起こす懸念がある。粘膜から剥離した細胞の形質を判定する細胞診は組織診と比べて低侵襲性である反面、組織構造の情報が得られないため悪性細胞の有無を探索するスクリーニング的な用途に制限される。本研究では、組織診と細胞診の欠点を補った新しい診断システム(マイクロバイオプシーアレイ)の開発を長期目標に掲げ、口腔粘膜上皮微小片における異型形質プロファイリング法の確立を目指している。 初年度では、口腔癌の疑いで全摘切除された舌の組織診標本を対象として、細胞骨格分子サイトケラチン(CK13、CK17)、増殖活性マーカー(Ki-67)、癌抑制因子p53の免疫組織化学的検索を行い、特にHE染色で判別可能な異型形質領域とCK13陰性・Ki-67陽性領域が高い相関を示すことや、p53発現が複数の発現様式を呈することを明らかにできた。 今年度は、癌幹細胞マーカーとして注目されるCD44およびBmi-1について、健常相当上皮・過形成上皮・異型上皮(上皮性異形成)における発現様式を比較解析し、微弱ではあるが異型形質の獲得に伴った分子発現変動の所見を得ることができた。また、癌細胞のマーカー分子発現と組織学的特徴との関連性を検証する目的で、扁平上皮癌病変の病理診断に用いられる浸潤様式分類に基づいた病型の特徴を精査し、代表的な分類(YK分類,INF,簇出,WPOI-5)における異型形質の特徴、相互関係および組合せの有用性を整理できた。今後は、予後不良症例の判定に有用と思われる浸潤様式分類の組合せごとに癌細胞マーカー発現との相関を確かめ、発癌過程のどの段階でそれらの形質変化を検出しうるかについて検索していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、舌癌疑いで全摘切除された検体試料を免疫染色に供し、試料の上皮層全域における形質マーカー発現をスコア化して分布パターンを判定する手法の改良を進めてきた。特に、病理診断での有用性に課題があるとされる癌抑制遺伝子p53の発現では、HE染色による組織形態との照合により、異型上皮分布との関連性に一定の様式がある可能性を見出している。 今回、初年度から続けている検体試料の収集により解析可能な舌病変が一定量得られたため、マウス舌上皮への異型誘発実験の計画を翌年以降に見送り、多重免疫染色の精度を高めるための条件検討を兼ねた組織解析を優先して行った。 また、当初計画には含めていなかったが、初期の舌扁平上皮癌(pT1/T2)の病理診断で応用されている浸潤様式分類[本邦で用いられる山本・小浜分類(YK分類)、近年口腔癌への適用が始まっているPattern of infiltrating growth(INF)、簇出、Worst Pattern of Invasion-5(WPOI-5)]と異型上皮形質の発現様式との関連性の検証を試みた。それぞれの分類は複数の型にカテゴライズされているが、そのなかで病変の悪性度と関連の高い型について比較解析を行ったところ、pT1/T2舌癌に対する予後指標としての有用性はほぼ同等であったが、これらの分類を併用した場合に、2つ以上の判定が重複していることや、独立要因であることが示唆される特定の所見も見出せた。 これらの解析はHE染色標本を対象としており、組織形状と初期の異型形質との関連に気付くうえで重要なステップであったと評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降の計画として、これまでの外科切除検体を用いた異型マーカー発現の検索を継続する。また、実施を延期した変異誘発モデルマウスの作出と分子探索を開始する。粘膜上皮への変異刺激としては、DNA損傷による変異原性を持つニトロキノリン、フェニルイミダゾピリジンの継続投与、また、動物用X線照射装置による局所照射を行う。所定期間の後、生じた粘膜病変は切除・採取し、凍結切片を作製してレーザーマイクロダイセクション法により上皮表層部と基底部に分割して切り取り、RNA精製・マイクロアレイ解析を実施、リアルタイムPCR・免疫染色で発現量・分布を検証する。マイクロアレイでの遺伝子発現データは、IPAソフトウェアによる分子パスウェイ解析に供する。病変表層部と基底層部における遺伝子およびタンパク発現の比較、また、薬剤非投与の対照群との比較によって異型細胞の指標となる分子候補を検索する。薬剤投与実験では長期観察群も予定するため、X線照射による反応性異型病変の実験と併行する。 変異誘発実験モデルで得られたマーカー候補分子については、組織における発現分布の検証と局在パターンの相関分析を予定している。比較対照となる粘膜病変として、口腔扁平苔癬などにみられる異型上皮についても腫瘍性異型上皮との相違を分子発現レベルで確認する。実験モデルを用いた上皮表層での異型鑑別の検証において有用な分子が同定できない場合、本申請の将来構想であるアレイデバイス(粘膜表層の微小回収とその採取位置を保持したままの解析)の実現に向けて、当該実験系での検体の回収条件(部位・細胞数)、標的分子検出条件の設定を予定している。
|