研究課題/領域番号 |
18K09779
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
小澤 重幸 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 講師 (40434394)
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研究分担者 |
畑 隆一郎 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 特任教授 (10014276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | CXCL14 / 糖代謝 / 頭頚部扁平上皮癌 / GPRC5b |
研究実績の概要 |
申請者はH29年度までに、頭頚部扁平上皮癌細胞株であるHSC-3を遺伝子改変したCXCL14ノックアウト細胞、および、そのノックアウト細胞にウイルスベクターを導入してCXCL14を強制発現させた細胞を作成し、マイクロアレイ法 (受託サービス利用) を用いてCXCL14が発現制御する遺伝子群を網羅的解析した。マイクロアレイの結果、糖代謝関連遺伝子が多く発現変動していることが明らかとなった。よってH30年度は、CXCL14と糖代謝制御について着目し、まずはマイクロアレイの結果が正しいのかどうか検討するため、リアルタイムPCR法を用いて確認を行った。多くの遺伝子については、マイクロアレイの結果とリアルタイムPCRの結果は異なってしまった。原因としては、① マイクロアレイとリアルタイムPCRで異なった遺伝子発現を示した遺伝子群は、使用した癌細胞で発現量が著しく低い遺伝子であり、マイクロアレイの結果が不正確であったこと、② 使用した癌細胞にCXCL14の受容体が存在しないこと考えられた。また、CXCL14ノックアウトの影響を確認するため、皮膚特異的なCXCL14のノックアウトマウスを作成予定としたが、使用していた発光・蛍光・可視光・イメージング装置が経年劣化によって故障してしまい (古い機器であったため修理不可能 )、PCRおよびウエスタンブロッティングの結果が検出できなくなってしまった。よって、ノックアウトマウス作成のための予算を同類の機器購入のためにあてがってしまい、マウス作成には至らなかった。インスリンの添加実験においいては、CXCL14ノックアウト細胞、およびそれにCXCL14を強制発現させた細胞間で明らかな変化は示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CXCL14のノックアウトマウスは肥満にならず、CXCL14がインスリン抵抗性と関連することが明らかとなっていた。本研究に至った理由としては、① 癌細胞は正常細胞と比較し多くの糖を必要とすること、さらには、② インスリン様成長因子が癌の増悪化に関与することが知られており、CXCL14の抗腫瘍メカニズムにインスリンを介した糖代謝抑制が関与していること考えたためである。しかしながら前述したように、① マイクロアレイの結果とリアルタイムPCRの結果が乖離してしまい、CXCL14が制御する標的分子が絞り切れなかったこと、② CXCL14ノックアウト細胞と強制発現細胞においてインスリン刺激が明らかな変化を示さなかったことが、本研究を遅らせた最大の理由と考えられる。また、H30に使用していた発光・蛍光・可視光・イメージング装置の故障に伴い、PCRやウエスタンブロッティングといった分子生物学的研究が、一時的ではあるが遂行できなかったことも理由の一つとしてあげられる。現在は、新たな機器を購入し、進行可能な状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞は正常細胞よりもはるかに多くの糖を細胞内に取り込むことで生育する。また、エネルギー源であるATP産生方法は、ATPの産生効率が悪い好気的環境下である解糖系に依存している。申請者が以前から注目している抗腫瘍性ケモカインCXCL14は、発癌から癌の増殖、そして転移に至るまで強力な抗腫瘍効果を示すが、その抗腫瘍メカニズムはいまだ明らかとなっていない。CXCL14の抗腫瘍メカニズムが解明されない理由としては、CXCL14の受容体が同定されていないことが最大の理由である。CXCL14はインスリン抵抗性と関連することが報告されており、申請者はCXCL14の抗腫瘍メカニズムに癌細胞の糖代謝障害が関与すると考え、インスリンとCXCL14の関係性を明らかとすることを目的としていた。しかしながら、実際に癌細胞にインスリンを添加しても明らかなCXCL14との関連性は認められなかった。近年、GPRC5bというオーファン受容体がCXCL14と全く同じく、インシュリン抵抗性や、糖代謝に関与することが見出され、この受容体は、結合するリガンドがいまだ明らかとなっていない分子であった。申請者は、① GPRC5bがCXCL14の受容体として有力な候補遺伝子であること、さらには、② 前述したインスリンの反応が弱い理由に、GPRC5bの発現レベルが関与するのではないかと考え、複数の癌細胞を使用しGPRC5bの遺伝子発現について検索を行った。結果として、今回の実験モデルで使用したHSC-3細胞は、GPRC5bの遺伝子発現が検出されない細胞であった。今後の展開としては、GPRC5bの発現が高い細胞の特性を検討した後、GPRC5bがCXCL14の受容体となりうるのかどうか、さらには、CXCL14がGPRC5bを介してインスリンシグナルを阻害するのかどうかを検討する予定である。
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