癌細胞は正常細胞よりも生存する為に多くの糖を細胞内に取り込む必要がある。また、エネルギー源であるATP産生方法は、ATPの産生効率が悪い好気的環境下である解糖系に依存している。申請者が以前から注目している抗腫瘍性ケモカインCXCL14は、発癌から癌の増殖、そして転移に至るまで強力な抗腫瘍効果を示すが、その抗腫瘍メカニズムはいまだ明らかとなっていない。近年、CXCL14が糖尿病の研究において糖代謝に関与する分子であることが明らかとなった。その研究結果に基づき、がん細胞に対するCXCL14の抗腫瘍効果にCXCL14の糖代謝が関与するのではないかと考え本研究は遂行してきた。本研究を遂行するにあたり、最も難渋したことは、CXCL14の受容体が同定されていないことである。近年、リガンドがわからないGタンパク共役受容体GPRC5Bが糖尿病研究で見出され、CXCL14と全く同じく、インシュリン抵抗性や、糖代謝に関与することが明らかとなった。そこで申請者は、GPRC5BがCXCL14の受容体の可能性があると考え、研究を進めることとなった。まず初めに、GPRC5Bの機能解明を行うため、複数の癌細胞株を使用し、GPRC5Bの遺伝子発現レベルと糖依存性について検索を行った。結果として、GPRC5Bの発現レベルと頭頚部扁平上皮癌細胞の糖依存性には関連性があり、GPRC5Bの発現が高い癌細胞は、培地中の糖含有量が低くても生存することが明らかとなった。さらにその理由として、糖飢餓時、GPRC5Bが生存のため依存する栄養源を糖から脂質に変更する可能性が示され、糖飢餓によって生じるアポトーシス回避につながると考えられた。
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