分子標的薬の開発は目覚ましく、わが国では口腔扁平上皮癌 (OSCC)に対して抗epidermal growth factor receptor (EGFR) 抗体、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体が承認されて、従来のシスプラチンや5FUとは違った分子標的治療が現実のものとなっている。研究代表者は、プロテインキナーゼC (PKC) を分子標的とするsafingolを用いてOSCC細胞のcaspase非依存的アポトーシス誘導機構を解明した。その後、safingolはスフィンゴ脂質代謝物sphingosine-1-phosphate(S1P)を生成するsphingosine kinase 1 (SphK1) を阻害することも判明した。S1Pを産生する酵素がSphKで、ヒトで同定された2種類のアイソザイムSphK1とSphK2が、発癌や浸潤,転移,放射線増感作用に重要な役割を果たすとされている。本研究ではTCGAデータを解析した結果、SphK1の発現が腫瘍組織で高かった。SphK1を阻害する薬物としてsafingol以外にDMS、PF-543なども開発されている。PF-543は各種OSCC細胞株(Ca9-22細胞、HSC-3細胞、SAS細胞)において濃度依存的および時間依存的に細胞増殖抑制効果を示した。さらに、Ca9-22細胞およびHSC-3細胞ではネクローシスの増強を、一方SAS細胞ではアポトーシスの増強を認めた。生体における細胞死の中には、ネクローシス、アポトーシスに加えてオートファジーを介した細胞死が存在する。SphK1選択的阻害剤PF-543によりアポトーシス、ネクローシスおよびオートファジーを誘導することを確認し、特にCa9-22細胞、HSC細胞ではオートファジー阻害剤により細胞死が抑制されることを確認した。
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