研究課題/領域番号 |
18K09803
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
野崎 中成 大阪歯科大学, 歯学部, 教授 (90281683)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再生医学 / 幹細胞 / エクソソーム / microRNA / 次世代シークエンス |
研究実績の概要 |
細胞から遊離して循環するエクソソーム機能性RNAは、多様な疾患の非侵襲的な診断バイオマーカーとして注目され、liquid biopsyへの臨床応用が期待される。多能性幹細胞から分泌された機能性RNAが、どのように細胞間コミュニケーションを図っているかを分子レベルで明らかにしたい。研究代表者は、歯髄幹細胞(DPSC)の多能性に関する研究を継続的に行ってきた。また、ES細胞から分泌する機能性RNAについて次世代シークエンス解析を行っている。本研究は、それらの研究をさらに発展させ、ヒト口腔組織由来多能性幹細胞が分泌するエクソソーム機能性RNAを網羅的に解析し、分泌型microRNA(miRNA)の細胞外機能に関する基礎的研究を行う。現在、翻訳後修飾であるポリADP-リボシル化反応を担うPARPファミリー1(PARP1)に注目し、PARP1の細胞間情報伝達における機能的意義・役割について調べている。これまでにParp1欠損マウスES細胞株を用いて研究を行い、Parp1が細胞外に遊離されるエクソソーム中のmiRNAを介して細胞外情報伝達にも関与する可能性を報告している。一方、間葉系幹細胞(MSC)由来のエクソソームが、活性酸素による組織傷害からの回復を促進するなど、その有用性が注目されている。DPSCは、MSCと類似した特性を持つが、PARP1が、DPSCの細胞間コミュニケーションにどのように関与するか解明されていない。本研究では、ヒト口腔組織由来多能性幹細胞として、ヒト初代培養DPSCを用い、DPSCが分泌するエクソソーム中の機能性RNAを、次世代シークエンス解析を用いて網羅的に調べ、PARP1のヒト口腔組織由来多能性幹細胞における細胞間コミュニケーションへの関与を明らかにする。本年度は、ヒトDPSCにおいてCRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト口腔組織由来多能性幹細胞として、ヒトDPSC(Lonza)を用いた。DPSCの特性を明らかにするため、in vitroにおける細胞増殖、細胞表面マーカーの発現および分化能の解析を行った。DPSCは初代培養細胞であり、当初良好な細胞増殖を示したが、およそ20継代を超えたところで細胞老化を示した。細胞表面マーカーの発現をフローサイトメトリーによって解析した。DPSCにおいて、MSCマーカーは発現していたが、血球・造血幹細胞マーカーの発現は認められなかった。ヒト骨髄、骨由来のMSCではCD271、SSEA-4共陽性細胞の存在が報告されているが、DPSCにおいて、CD271またはSSEA-4のいずれかが陽性の細胞はわずかに存在したが、CD271、SSEA-4共陽性細胞は認められなかった。DPSCの分化能については、間葉系細胞系譜と同様の分化能を示すことが確認された。DPSCにおけるPARP1の発現を調べるため、抗PARP1抗体を用いた免疫蛍光染色を行った。PARP1のDPSCにおける発現は、他の細胞と同様に核内に局在していることが確認された。次に、DPSCにおけるPARP1の発現をノックアウトするため、CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集を試みた。PARP1のエクソン部分にcrRNAをデザインし、tracrRNAとハイブリダイゼーションさせたのち、エレクトロポレーション法を用いて、Cas9タンパク質とともにDPSCへ導入した。導入した細胞を限界希釈法によってシングルセル化し、3つのクローンを得た。ゲノム編集を行い、次世代シークエンス解析のための準備段階にあり、当初予定していた計画と照らして、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト口腔組織由来多能性幹細胞として、ヒトDPSC(Lonza)を用いて解析を進める。ゲノム編集によりPARP1をノックアウトしたDPSCのクローンにおいて、PARP1の発現が欠損していることを免疫蛍光染色により確認する。PARP1の発現が欠損していることが確認されたクローン株の培養上清より、exoRNeasy Serum/Plasma Midi KitとQIAseq miRNA Library Kitを用いて、エクソソーム由来の低分子RNAを抽出する。イルミナ社次世代シークエンシングプラットフォーム(NextSeq)を用いて、次世代シークエンス解析を行う。PARP1欠損により変動した機能性RNAを網羅的に調べ、PARP1遺伝子型により有意な差異のあったmiRNAを抽出する。得られたリード配列情報を基に、バイオインフォマティクス解析へ進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)大学の研究費等も充当したため、当該基金の一部を使用せず、翌年度分へ繰り越した。
(使用計画)次世代シークエンス受託解析に用いる予定である。その他、物品費として、試薬等の消耗品に使用する予定である。本研究で得られた成果を、学術誌や国際会議で報告する場合には、英文校正費として使用する予定である。
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