昨年度までの解析により、ポリ(ADP-リボ-ス)合成酵素(PARP1)をノックアウトしたヒト歯髄幹細胞(DPSC)から産生されるエクソソームと細胞増殖との関わりを明らかにした。PARP1をノックアウトした細胞は増殖能力が著しく低下するため、最終年度ではPARP阻害薬(AZD2281)を用いた解析を行った。DPSCにAZD2281を添加し、PARP1活性を阻害すると、PARP1をノックアウトしたDPSCと同様に細胞増殖の低下が認められた。さらに、PARP1阻害によってCDKN2A/p16やCDKN1A/p21の発現上昇が認められ、PARP1阻害が細胞老化を惹起していることが示唆された。間葉系細胞においてTGFB2/TGF-beta2の発現により細胞老化が誘導される。DPSCにおいてPARP1を阻害すると、TGFB2の発現は有意に上昇した。一方、抗TGF-beta抗体(1D11)は、PARP1阻害により誘導される細胞老化を抑制する傾向にあった。これらの結果から、DPSCにおけるPARP1阻害により誘導される細胞老化に、TGFB2の発現上昇が関与していることが示唆された。 老化した間葉系細胞は、細胞老化関連分泌形質(SASP)因子を産生する。本研究では、DPSCにおいてPARP1の欠失や活性阻害によって、細胞老化に関連するエクソソームを認め、TGFB2などのSASP因子の産生が亢進することを明らかにした。PARP1阻害によるTGFB2などSASP因子の産生は、エクソソームの刺激に起因する可能性があると考えられた。細胞老化は、PARP1の機能が低下した細胞から遊離するエクソソームを介した細胞間コミュニケーションにより、促進されることが示唆された。
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