研究課題/領域番号 |
18K09812
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
入舩 正浩 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (10176521)
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研究分担者 |
兼松 隆 九州大学, 歯学研究院, 教授 (10264053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドパミン神経 / ドパミン受容体リガンド / GBR-12909 / メタンフェタミン / ホルマリンテスト / 線条体 / マイクロダイアリシス法 / オプトジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究代表者らのこれまでの研究結果から推測された全身麻酔薬などの薬物により引き起こされる全身麻酔下では下行性鎮痛系が抑制されるのか、また、その抑制がどのような機序で生じているのか、さらに、これまで臨床で一般的に使用されてきたフェンタニルといった副作用の強いオピオイドを用いない下行性鎮痛系の増強機序を解明し、その機序の応用によって鎮痛・不動化作用を生じさせる、全く新しい全身麻酔法を開発することにある。 本研究により、神経科学研究のツールであるマイクロダイアリシス法などを用いて既存の全身麻酔薬が下行性鎮痛系を抑制することを示せれば、手術時の鎮痛・不動化を得るために臨床上より高用量の麻薬性鎮痛薬が使用されていることを明確にできる。さらに、下行性鎮痛系を線条体からのドパミン神経が促進することから、選択的ドパミン受容体作動薬の活用により痛覚抑制系を増強する全く新しい全身麻酔法が確立できれば、呼吸・循環抑制といった重篤な副作用のある麻薬性鎮痛薬を使用しなくてもよくなるかも知れない。2年目以降の研究では、痛み刺激としてマウスの足蹠にホルマリン皮下注射を行い比較的長時間痛みを発現するホルマリンテストを行い、選択的ドパミン取り込み阻害薬のGBR-12909とドパミン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬であるメタンフェタミンの鎮痛作用を確認した。また、選択的ドパミン受容体拮抗薬であるSCH-23390とハロペリドールはメタンフェタミンによる鎮痛効果を部分的にリバースした。さらに、マイクロダイアリシス法を用いて、GBR-12909とメタンフェタミンによる線条体ドパミン遊離促進作用を明らかにした。オプトジェネティクス実験については、ヒトsynapsinプロモーターの下流にChR2-GFP融合タンパク質をクローニングさせた1型アデノ随伴ウィルスベクターを準備するに至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、初年度の研究で、神経生化学的手法とオプトジェネティクス(光遺伝学)の遺伝子工学技術を用いて、下行性鎮痛系の重要な経路である吻側延髄腹内側部(RVM)にある神経終末からのエンケファリン遊離について、1)RVM組織スライスからのエンケファリン遊離を全身麻酔薬が抑制し、ドパミンD1-D5受容体作動薬が促進するか(in vitroスライス実験)、2)侵害刺激により誘発されたRVMにある神経終末からのエンケファリン遊離を全身麻酔薬が抑制し、ドパミンD1-D5受容体作動薬が促進するか(in vivoマイクロダイアリシス法)、3)側坐核のニューロンにチャネルロドプシン2(ChR2)を発現させた後、これを光刺激して神経興奮させることによりRVMにある神経終末からエンケファリン遊離が促進されるか、また、この促進が全身麻酔薬により抑制されるか(オプトジェネティクス・マイクロダイアリシス実験)、明らかにする予定であった。しかし、まず、エンケファリン測定が困難であったことから、これをβ-エンドルフィンに変えたこと、測定部位をRVMから中脳水道周囲灰白質(PAG)に変更したこと、β-エンドルフィンに加え下行性鎮痛系の調節に重要な役割を果たしているγ-アミノ酪酸 (GABA)の測定が可能になったこと、ChR2-GFP融合タンパク質をクローニングさせた1型アデノ随伴ウィルスベクターの作製にはかなりの金額が必要で今回の予算では足りなかったこと、などにより今のところ実験の進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、痛み刺激としてマウスの足蹠にホルマリン皮下注射を行うホルマリンテストを行い、選択的ドパミン取り込み阻害薬のGBR-12909とドパミン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬であるメタンフェタミンの鎮痛作用を確認し、これらの鎮痛作用が選択的ドパミン受容体拮抗薬で拮抗されることを明らかにした。また、マイクロダイアリシス法を用いて、これらの薬物の線条体ドパミン遊離促進作用を明らかにした。オプトジェネティクス実験については、ヒトsynapsinプロモーターの下流にChR2-GFP融合タンパク質をクローニングさせた1型アデノ随伴ウィルスベクターの作製にかなりの金額が必要で今回の予算では足りなかったことから実施できなかった。次年度以降は、エンケファリンをβ-エンドルフィンとGABA測定に、測定部位を吻側延髄腹内側部(RVM)から中脳水道周囲灰白質(PAG)に変更し、予定していた研究計画を遂行していく予定である。
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