研究課題/領域番号 |
18K09814
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
原田 耕志 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (60253217)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アルテスネート / 口腔扁平上皮癌 / 抗腫瘍効果 |
研究実績の概要 |
抗マラリア薬であるアルテスネートが、口腔扁平上皮癌細胞HSC2、HSC3、HSC4、Ca-9-22、SASの増殖に与える影響をMTT assayを用いて検討を行った。すなわち、アルテスネート(0.0625 - 64 μg/ml)の濃度で、上記細胞の48時間処理を行った所、未処理細胞と比較して有意な増殖抑制効果を示した。すなわち、HSC4、SASでは0.5 μg/ml以上で、HSC2、HSC3では1 μg/ml以上で、Ca-9-22では2 μg/ml以上で有意な増殖抑制効果を確認できた。ただし、増殖抑制率で比較すると、アルテスネート2 μg/ml、48時間処理の場合、コントロール(未処理対照)と比較して、増殖抑制率はそれぞれ HSC2では42.0%、HSC3では27.4%、HSC4では46.7%、Ca-9-22では37.4%、SASでは60.7%であり、SASに対するアルテスネートの効果が最も顕著で、HSC3に対するアルテスネートの効果が最も乏しかった。一方、アルテスネートは、ヒト表皮角化細胞HaCaTでは49.4%の増殖抑制率を示し、残念ながら正常細胞に対しても増殖抑制効果を発現した。次にin vivoでアルテスネートの抗腫瘍効果と安全性を評価した。すなわちHSC2細胞をヌードマウス背部皮下に移植して作成した担癌ヌードマウスに対して、アルテスネート (100mg/kg) 1日1回、3週間連続投与を行ったところ、生食を投与したコントロール群と比較して、HSC2腫瘍は腹腔内投与では30%縮小し、腫瘍周囲投与では55%縮小し、共に有意な抗腫瘍効果を発現した。なお体重変化では有意差を認めず、皮膚炎等も認めず、その他、明らかな変化は認められなかった。以上の結果から、アルテスネートは副作用は少なく、その安全性は高いと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の口腔扁平上皮癌細胞に加え、正常表皮角化細胞に対する抗マラリア薬であるアルテスネートの細胞増殖への影響を確認できた。また、担癌ヌードマウスに対するアルテスネート投与の抗腫瘍効果や副作用の検索も行うことができた。なおアルテスネートの投与法として、腹腔内投与と腫瘍周囲投与とを比較した所、腫瘍周囲投与の有効性を確認できた。さらにフェロトーシスに関わる鉄(Fe)、4 Hydroxynonenal (4HNE)、Glutathione Peroxidase 4 (GPX4)、Glutathione、Transferrin receptor、Hypoxia Inducible Factor 1 Subunit Alpha Inhibitor(HIF1AN) それぞれの各口腔扁平上皮癌細胞における発現の差異をWestern blot法を用いて確認できている。このため、これらの発現の差異を指標に、アルテスネートと既存の各種抗癌剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤との併用処理を行い、効果的なフェロトーシス誘導レジメンを検討し始めている。これらのことから、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、アルテスネートと既存の各種抗癌剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤との併用処理による細胞増殖効果を検索するとともに、鉄(Fe)、4 Hydroxynonenal (4HNE)、Glutathione Peroxidase 4 (GPX4)、Glutathione、Transferrin receptor、Hypoxia Inducible Factor 1 Subunit Alpha Inhibitor(HIF1AN) の発現への影響も検索し、効果的なフェロトーシス誘導レジメンの検討を継続して行う予定である。効果的な治療方法を絞り込んだ後、口腔扁平上皮癌細胞をヌードマウス背部皮下に移植して作成した担癌ヌードマウスに対して、上記で得られた効果的な治療方法を行い、そのレジメンの有用性を評価する。さらに、上記で得られた効果的な治療方法が有効であった場合には、その効果発現のメカニズムについても詳細に検討して行きたいと考えている。また、抗癌剤耐性口腔扁平上皮癌細胞を用いて、同様に担癌ヌードマウス腫瘍を作製し、難治性口腔扁平上皮癌に対しての有効性についても明らかにしたいと考えている。抗マラリア薬であるアルテスネートに期待しているが、効果が不十分であった際には、アルテスネートの代わりに、鉄キレート剤デフェロキサミンを用いて、上記検討を行いたいと考えている。
|