研究実績の概要 |
エナメル質損傷を低減・回避できる矯正歯科治療法の構築に向け、以下の成果を得た。 まず、Tris (1,3-diphenyl-1,3-propanedionato) (1,10-phenanthroline) Eu(III) [Eu (DBM)3 Phen]を用い、PMMA/MMA-BPO/アミン系レジンおよび4-META/MMA-TBB系レジンへの添加の効果について評価した。前者ではEu錯体含有率依存的に蛍光強度が増加するのに対し、後者ではほとんど蛍光を発しないことを明らかにした。前者では395 nmに励起極大波長が、579, 591, 613および652 nmにそれぞれEu3+イオンの5D0 → 7F0, 5D0 → 7F1, 5D0 → 7F2および5D0 → 7F3遷移による蛍光が認められ、613 nmが蛍光極大波長であることを確認した。後者の原因は、n-TBBによるDBMの異性化とそれに伴う配位圏内でのカスケード遷移の不成立であると結論づけた。 次に、ジメタクリレートをベースとする7種の光重合型蛍光ボンディング材を試作し、光学・色彩学的評価を行った。自然光下での色は、カンファーキノンおよびEu錯体の含有率をともに0.1 wt%まで下げることで無色に近い淡黄色にできた。すべての試料で395 nmに励起極大波長、613 nmに蛍光極大波長が現れ、蛍光強度はEu錯体含有率依存的に増加した。最大蛍光強度y は、Eu錯体含有率(x)が0.1 wt%以下の場合には指数関数的に増加するが、0.1 wt%を超えると増加が鈍化することを明らかにした。色彩については、EU錯体含有率0.2, 0.4 wt%の試料の蛍光は鮮やかではあるものの明度が高すぎるため、0.1 wt%未満の試料では励起光(青-青紫)が優勢となるため、臨床応用には0.1 wt%が好適であると結論付けた。
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