歯の喪失は、肥満やアルツハイマー型痴呆症等の危険因子であると報告されている。本研究は、咀嚼による歯からの感覚情報が高次中枢に与える影響、さらに全身身体機能との関連を解明することを目標とした。 1、咀嚼が高次中枢摂食調節機構に与える影響の解明 はじめに、ヒト高次中枢における摂食調節機構のひとつである、快楽/報酬処理センターに着目した。eye-tracking測定装置にて眼球運動を測定し、食物への注意力(興味の指向性)に咀嚼が与える影響を検討し、咀嚼が食物への指向性を減少させることが示唆された。その成果を国内学会のシンポジウムでの発表し、また国内・国際雑誌へも発表した。 また、上述の快楽/報酬処理センターとは異なる、脳の栄養センサにおける摂食調節機構にも焦点をあてた。これは代謝の観点から、「咀嚼」が脳の栄養センサに与える影響を解明することを目的として、安静時機能的磁気共鳴画像法(rs-fMRI)を用いて、咀嚼による脳信号変化を測定した。予備実験にて実験プロトコルを検討した後、最終年度は本実験を遂行し、目標の被験者数のデータ採得を達成した。そして、採得された脳信号データのアーチファクトの除去方法を試行錯誤している。 2、咀嚼時の感覚情報が高次中枢運動制御機構に与える影響の解明 前歯部および臼歯部咬合の違いによる咀嚼運動時の神経機構の同定のため、前歯/臼歯部咬合時に、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と咀嚼筋筋電図の同時計測を行い、両者の脳賦活パタンの違いを関心領域において検討したところ、前歯/臼歯部咬合により相反する様相を呈することが示され、前歯/臼歯部では中枢神経における咀嚼運動制御機構、特に力の制御システムが異なることが示唆された。この成果を国内・国際学会にて発表し、国内学会においては学術奨励賞、および最優秀発表賞を受賞した。また、国内・国際雑誌にも発表を行なった。
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