研究課題/領域番号 |
18K09831
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野村 良太 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (90437385)
|
研究分担者 |
鋸屋 侑布子 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40803078)
大継 將寿 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40803086)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | Streptococcus mutans / 齲蝕 / 感染性心内膜炎 / コラーゲン結合タンパク / 菌体表層タンパク |
研究実績の概要 |
ヒトの齲蝕の主要な原因菌であるStreptococcus mutansは、感染性心内膜炎の起炎菌としても知られている。S. mutansの菌体表層には複数の病原タンパクが発現しているが、約10~20%のS. mutans株において発現が認められるコラーゲン結合タンパク(collagen-binding protein; CBP)は、血管内皮細胞への付着侵入能に関わり、感染性心内膜炎における主要な病原因子である可能性が高いと考えられている。一方で、感染性心内膜炎の主な原因の一つが歯科疾患であることが広く知られているにもかかわらず、動物実験において心臓弁に傷害を与えることにより作製された感染性心内膜炎モデルに、歯科疾患を併発させた報告は存在していない。本研究では、S. mutansを口腔から感染させ重度の齲蝕を発生させたラットの心臓弁を傷害することにより、心臓および感染性心内膜炎の合併症が生じるとされる脳、肺、腎臓および脾臓の評価を行った。 18日齢のラットの口腔内に、CBP陽性S. mutans株を1週間連続投与した後3か月間飼育し齲蝕を誘発させた。その後、心臓弁を傷害させ1か月間飼育後、顎骨、心臓、脳、肺、腎臓および脾臓を摘出した。その結果、口腔内には歯髄に及ぶ重度の齲蝕を認め、多数のS. mutans株が分離された。また、一部のラットにおいて心臓の肥大を認めるととともに、心臓弁からはS. mutans株が分離された。他の臓器においては、ラットの約半数に肺の点状出血が認められた。さらに、腎臓の白色化や脾臓の肥大が認められるラットが認められた。 本研究において、齲蝕病変部に存在するS. mutans株が心臓弁からも分離されたことから、感染性心内膜炎の増悪因子となり得ることを示した。また、感染性心内膜炎の合併症となり得る遠隔臓器にも影響が及んでいることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ラットの心臓に傷害を生じさせることにより、口腔内に存在するある種のS. mutans株が血中を介して心臓弁へと到達することを示した。しかしながら、外部委託の動物実験施行者の体調不良のため、どの程度の齲蝕や心臓の傷害により心臓弁から菌が分離されるに至るかについての詳細は明らかにできていない。また、研究に用いた菌株がCBP陽性S. mutans株1株のみにとどまっており、他の菌体表層タンパクに着目した研究を行うには至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、齲蝕や心臓の傷害の重篤度に関して複数の条件を設定し、それぞれの条件下においてS. mutansが及ぼす影響について明らかにしていく予定である。本研究では、多数の菌体表層タンパクのうちCBPが陽性のS. mutans株を用いて、口腔内に存在する菌株が心臓弁に到達することを示すことに成功した。今後の研究では、齲蝕病変部中に存在するS. mutans株のCBPが感染性心内膜炎における有力な病原因子であることを示すために、CBPをコードする遺伝子を欠失させた変異株や、この変異株にCBPをコードする遺伝子を再導入した相補株を用いて分析を行う予定としている。また、健常者の口腔内に広く存在するCBP陰性S. mutans株を用いた検討も行う必要がある。さらに、CBP以外に感染性心内膜炎の病原性に関与する可能性のある菌体表層タンパクにも着目し、分析を行いたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)外部委託の動物実験施行者の体調不良のため、当初予定していた動物実験計画に遅れが生じたことが、次年度使用額が生じる原因となっている。 (使用計画)本年度末には動物実験施行者の体調が回復したため、当初予定していた実験を進めている。現時点ではやや遅れているが、次年度末までには当初のスケジュール通りになると推測している。
|