研究課題/領域番号 |
18K09839
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
稲田 絵美 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (30448568)
|
研究分担者 |
佐藤 正宏 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 教授 (30287099)
齊藤 一誠 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (90404540)
野口 洋文 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50378733)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 遺伝子工学的手法 / 乳歯歯髄幹細胞 / 体性幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、乳歯歯髄細胞(HDDPC)に含まれる体性幹細胞(somatic stem cell, SSC)を単離・濃縮し、これを分子生物学的に解析することにより、HDDPC由来SSCの実体を解明することを目的とする。 実施計画では、SSCの増殖、単離、濃縮を目指し、① HDDPCへの不死化遺伝子(テロメア逆転酵素遺伝子など)導入による細胞不死化(永久増殖)の誘導、② OCT3/4、SOX2、NANOGなどの幹細胞特異的遺伝子由来promoterを搭載したpiggyBac(PB)系トランスポゾンベクター導入による安定株の取得、③ 単離した安定株のマイクロアレイ解析などによる遺伝子発現様式の比較解析、④ 単離株の多分化能性及びiPS細胞誘導能などの細胞機能解析、を行う。 2018年度にはPBベクターに不死化遺伝子を組み込んだ不死化用ベクターをHDDPCへ導入し、不死化HDDPC株を取得した。 2019年度には幹細胞特異的遺伝子promoter搭載PBベクターの導入を試みたものの、遺伝子導入後の細胞生存率が低かった。そこで、別の方法を用いた。即ち、幹細胞特異的マーカー蛋白であるアルカリ性フォスファターゼ(ALP)活性を組織化学的に検出するキットを用い、陽性染色された細胞、陰性細胞それぞれを単一細胞として胚操作用ピペットを用いて実体顕微鏡観察下にて分取。単一細胞のmRNAからcDNAを大量に増幅させた。これを鋳型にALPの発現をRT-PCR法にて調べた結果、ALP陽性 vs. ALP陰性細胞間にはALP遺伝子発現に違いがあり、組織化学的(あるいは、免疫細胞化学的)に染色された細胞からも遺伝子発現のprofilingが可能であることが判った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、2種類の不死化用PBトランスポゾンベクターpT-E7(E7遺伝子を搭載)とpT-hTERT(ヒトTERT cDNAを搭載)を作製し、他のマーカー遺伝子搭載のPBトランスポゾンベクター(pT-pac + pT-tdTomato or pT-EGFP)+ transposase発現ベクターpTransと共に、Neon electroporation systemにてHDDPCへ遺伝子導入した結果、pT-E7由来の株は2個、pT-hTERT由来の株は3個得た。これら株は悪性化しておらず、親株同様、細胞接触阻害やALP活性、OCT-3/4、SOX2、NANOG、NESTINの発現、更に、in vitroにおいて神経や骨細胞へ分化する能力を維持していた。以上の結果から、「親株の特性を保持したまま細胞の不死化に成功した」と考えられる。 2019年度は、幹細胞特異的遺伝子のpromoter搭載ベクターの導入を試みたものの、遺伝子導入後の細胞生存率が低かった。そこで、我々の過去の研究で得られた「ALP活性が高く、核内転写因子OCT3/4をはじめとする複数の幹細胞特異的遺伝子を発現するHDDPCは、iPS細胞化されやすい」という結果に基づき、ALP活性検出キットで細胞化学染色を施されたHDDPCからALP陽性、陰性細胞を単一細胞として分取した。全トランスクリプトーム増幅(WTA)により、各単一細胞のmRNAから合成したcDNAを大量に増幅し、これを鋳型に各種幹細胞特異的遺伝子の発現をRT-PCR法にて調べた。その結果、ALP陽性細胞はALPとOCT3/4を発現。一方、ALP陰性細胞にはALPとOCT3/4の発現はなかったが、SOX2の発現を認めた。以上から、HDDDPCには幾つかの遺伝子発現profileが異なるSSCが存在している」と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は引き続き、3つの幹細胞特異的遺伝子promoterの下流に、EGFP(緑蛍光蛋白)cDNA + poly(A)付加部位 + neomycin耐性遺伝子発現ユニット(neo)を内蔵する3種のPB系ベクター、いわゆる、pT-SOXEN(SOX2 promoter搭載)、pT-NANEN(NANOG promoter搭載)、pdOEN(OCT3/4 promoter搭載)のHDDPCへの導入を継続する。同時に、2019年度の研究で成果のあった、胚操作用ピペットを用いた分取法を用いて、幹細胞特異的遺伝子を発現する細胞の分取と解析を進める。具体的には、培養用plastic dishにて増殖した各細胞を0.25% trypsin-EDTAで剥離した後、浮遊細胞を4% paraformaldehydeで固定後、OCT3/4ならびにSOX2に対する抗体で一次染色する。さらに、ペルオキシダーゼで標識された二次抗体で二次染色を行った後、HistoGreenペルオキシダーゼ基質キットで染色する。胚操作用ピペットを用いて実体顕微鏡観察下、OCT3/4ならびにSOX2陽性、陰性細胞それぞれを単一細胞として分取。tube内の4%牛胎児血清(FBS)を含むリン酸緩衝液(FBS-PBS)滴(1 µL)内に単一細胞として収める。これらの単一細胞について、WTAにより各単一細胞のmRNAから合成したcDNAを大量に増幅し、これを鋳型にOCT3/4, SOX2 mRNAの発現をRT-PCR法にて調べる。RT-PCRの結果、陽性細胞と陰性細胞の間に遺伝子発現パターンの差を認めたら、マイクロアレイ法やNGS法などで各種幹細胞特異的遺伝子発現様式を検索し、細胞株における遺伝子発現の分類パネル(遺伝子profiling)を作製し、株間の近似性を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は細胞の遺伝子発現解析の機会が増える見込みである。また、成果について論文を作成し、投稿する予定である。そのため、次年度使用額として翌年度分に助成金を持ち越した。よって、持ち越した研究費は採取したDNAサンプルの遺伝子発現解析の外注と論文校正、論文投稿費用として使用予定である。
|