研究実績の概要 |
われわれは、これまで顎顔面の形成過程を司る分子シグナル機構を調べてきた。昨年までにWntシグナルをstopさせると顎顔面の発生が阻害され、唇顎裂が発症することを明らかにし、さらに組織発生に関与する遺伝子(Msx1, Bmp4, Tbx22, Sox9, Barx1)発現が減少することも明らかにした。
令和2年度は、Wnt pathwayにおいてbeta-cathenin分解を阻害するAllsterpaulloneを用いてWntシグナルを活性化すると組織発生に関与する遺伝子(Msx1, Bmp4, Tbx22, Sox9, Barx1)の上顎突起組織における発現が、upregulateすることを明らかにした。今年度は、Wnt3aを用いて、Wntシグナルを直接活性化させた時の上顎突起組織における遺伝子発現の変化を調べた。Wnt3a はWntシグナルのリガンドでWntレセプターLRP5/6に結合してbeta-catheninを経由してWntシグナルを活性化させる。Wnt3a peptideをAffi-gel beadsに浸潤させ、顔面突起が癒合して上顎の形態形成が行われる直前のchick embryoの上顎突起に投与した。投与後6時間で上顎突起組織を摘出し、RNAを抽出しReal-time RT-PCRを行った。その結果、上顎の形成に関与するMsx1, Msx2, Bmp4, Bmp7, fgf-8b, Tbx22, Sox9, Barx1の有意な発現上昇を認めた。このことはWntシグナルが上顎の形成を制御することを示している。したがってWntシグナルを活性化させると顎顔面組織の成長発育が促進されることが明らかとなった。
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