歯牙は胎児期から青年期にかけて形成される第一の消化器官であり、正常な咬合は全身成長に不可欠である。歯胚形成期の発達機構については解明が進む一方で、出生後から成長期を経て永久歯の咬合が完成するまでのメカニズムは不明な点が多い。破骨細胞抑制により骨吸収抑制作用を示す抗RANKL抗体やビスホスホネート製剤は、発達期の顎骨や歯牙萌出に対する作用機序や副作用が不明瞭なまま、小児の骨系統疾患への適用が開始されており、安全性に関する知見の充実が急務である。申請者らは、成長期、特に出生後から永久歯の萌出完了までの青年期における、歯胚および歯槽骨形成と顎骨骨代謝の連関を明らかにすることを目的として本研究を行った。 抗RANKL抗体およびビスホスホネート製剤を投与して実験モデルを作製し、2018~2019年度に以下の結果を得た。投与1週間後には、ゾレドロン酸投与群の骨髄細胞でCD11b陽性細胞の増加とCD19、CD22、B220陽性細胞の減少が認められた。薬剤の長期投与群では、抗RANKL抗体は成長に影響を示さなかったが、ゾレドロン酸の長期投与は歯牙萌出の遅延と顎骨・頭蓋骨および全身の成長抑制を認め、骨芽細胞数は減少した。 2020年度は骨吸収抑制薬を投与したモデルマウスを8週齢まで育成し、顎骨形成および歯牙萌出の時系列的解析を行った。抗RANKL抗体はいずれの週齢でも顎骨における破骨細胞発現を抑制したが、骨芽細胞分化、および歯の萌出に対する影響は及ぼさなかった。一方、ゾレドロン酸の長期投与は4週齢以降の全身の成長抑制を惹起し、顎骨・頭蓋骨の形成を阻害した。顎骨における破骨細胞分化への影響は見られなかったが、骨芽細胞分化が抑制された。臼歯部では歯根形成が阻害されて歯の萌出遅延を生じ、切歯部では先端の形態に異常が認められた。 以上より、骨吸収抑制薬は歯の発達に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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