研究課題/領域番号 |
18K09867
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
櫻井 敦朗 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (90431759)
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研究分担者 |
新谷 誠康 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (90273698)
本間 宏実 東京歯科大学, 歯学部, 助教 (80637760)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 齲蝕 / 食育 / 細菌叢 |
研究実績の概要 |
わが国では現在、食育が注目され、乳幼児のみならず母親の妊娠中から、小児への食育に関する意識を高めることが推奨されている。口腔内には600から800種の細菌が存在するとされるが、それらで構成される口腔内細菌叢は健康な状態の維持と密接に関わっており、細菌叢が撹乱されることは齲蝕や歯周病をはじめとする疾患発生に強く影響すると考えられるため、これまで疾患の有無によって細菌叢の差異を解析する研究が多く行われてきた。しかし、口腔内細菌叢の形成過程ともいえる3歳以下の小児を対象に、細菌叢の形成の推移を経時的に解析した研究は行われておらず、この時期の食習慣や生活習慣状況が、細菌叢の形成にどの程度影響を与えるのかについても明らかではない。本研究では、出生直後から継続して口腔内試料を採取し、細菌叢解析を行って口腔内細菌叢の形成に影響を与える食習慣などの因子の解析を行っている。これまでに約10数名の唾液・舌スワブ標本の採取を出生時から行なっており、生活習慣・食習慣の記述調査も並行している。これまでに、口腔内に存在する細菌種数は出生児には少ないが、その後徐々に増加していくこと、属レベルにおいては早期に両親の細菌叢に類似していくことを明らかとした。 生涯にわたって口腔疾患の発生リスクの低い状態を維持するためには、小児期に適切な食習慣や生活習慣を通じ、正しい口腔内細菌叢を構築するための環境作りが重要であると考える。政府は現在第3次食育推進基本計画を打ち出し、その重点課題に若い世代に対する食育推進、妊産婦や乳幼児に関する栄養指導をあげている。本研究の目的は、近年注目を増している食育を低年齢から推進することの意義について、微生物学の観点から最新の技術を用いて解析し、新規かつ客観的な「エビデンス」を見出すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、口腔内細菌叢の形成過程にある0から1歳児を対象に、口腔内試料を継続的に採取して口腔内細菌叢に関するデータを取得する。また、食習慣や生活習慣によってどのように影響を受けるのかを明らかにする予定である。平成30年度中に予定していた主な内容は、①被験者の選定、試料の採取、②細菌由来ゲノムおよびRNAの抽出、③次世代シーケンサーを用いた口腔内細菌叢解析があげられる。 ①については、代表者の所属する小児歯科診療室で、来院した母親の出産予定の新生児およびすでに来院している0から1歳児、合計20名程度を対象とする予定であったが、これまでに10数名に対して同意を得て試料採取を開始している。引き続き平成31年度も新たな被験者の選定を行う予定である。被験者の現在歯、口腔内清掃状態や齲蝕・歯肉の状態を記録し、被験者の生活習慣や食習慣についての記述調査を行なっている。のちに、食習慣、生活習慣、齲蝕リスク、性別、年齢などの複数の切り口から2から3群に分類し、のちに群間での比較を行う予定である。②については、得られた試料から細菌由来のTotal nucleic acidを抽出し、DNase処理およびRNase処理を行ったものを解析に供することにしている。現在行なっているのは主に細菌叢解析のみであるが、今後RNA発現解析も行なっていきたい。③については、前項で得られたゲノムDNAをテンプレートとして、細菌の16S rRNA遺伝子の一部配列の増幅を行い、次世代シークエンサーMiSeqによって遺伝子シークエンスを行っている。得られた配列はウェブ上のデータベースSilva, Human oral microbiome databaseと照合して細菌種を推定している。得られた試料について、順次解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず①引き続き試料の採取、Total nucleic acidの抽出、口腔内細菌叢解析を予定している。本研究では、同一小児の口腔内細菌叢の形成過程を観察するため、研究機関の大半を通じて同様の操作が必要である。試料の採取は少なくとも乳歯列の完成する3歳頃までは行う計画である。そのため本研究の研究期間は4年を予定している。また、小児と成人の口腔内細菌叢との比較を行うため、対象小児の両親および対象小児との関連がない健康な成人から試料を採取する予定である。各試料に関するデータが集積してくると、次に②分類した群間の細菌叢パターンの比較、特異的に存在する菌種のピックアップを行う。これは、同一被験者の各試料間、または記述調査の結果で被験者を分類し、その各群間における比較を行い、各群に共通で多く含まれる菌種、一方の群に高頻度に認められる菌種を抽出しようとするものである。またPCoA解析に基づいて細菌叢のパターンを分析し、系統樹の作成、ドットプロット解析を行う。成人との比較を行い、小児の細菌叢がどのように成人に近づくか、生活習慣や食習慣がどのように影響するかについて検討を加えることとしている。最後に、一部の試料については③微生物トランスクリプトーム(RNA発現)解析を行いたいと考えている。これは、現在も行なっているtotal nucleic acidを抽出したのちにtotal RNAを得て、rRNAの除去処理後、逆転写反応によってdsDNAを生成しておく。これを同様に次世代シークエンサーによって遺伝子シーケンスすることによって、採取時に試料中の細菌が発現していたmRNAの全体像を把握したい。細菌叢全体としての機能解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
集められた試料が当初予定よりも少なかったために、次世代シーケンサーの使用回数が1回分少なくなったことによるもの。昨年度は被験者の選定がやや遅れている面はあったが、その後試料は問題なく集まってきており、今年度に使用する予定である。
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