口腔内細菌叢の形成過程を明らかにしようとする研究はいくつか行われているが、我々は同一研究参加者の出生直後から試料を経時的に採取してその変化を追う研究を行ってきた。我々はこれまでに、継続的に乳幼児から口腔内サンプルを採取して、出産当日の口腔内にも属レベルで10程度からなる細菌叢が存在し、2歳頃までの早期のうちに成人(両親)の細菌叢に近づき、その後は変化が小さくなっていくことを明らかにした。口腔内に形成される細菌叢はその地点、または近い将来の口腔・全身疾患の罹患リスクを反映していると考えられる。乳幼児期は口腔の細菌叢の形成時期に当たり、生涯にわたって口腔疾患の発生リスクの低い状態を維持するためには、小児期に適切な食習慣や生活習慣を通じ、正しい口腔内細菌叢を構築するための環境作りが、健全な顎口腔機能の育成に重要であると考えられる。しかし、その考えに従うと3歳未満の低年齢で齲蝕が生じるような小児では、その後生涯にわたって口腔疾患のリスクが高い状態が続くことになる。 本研究では、口腔内細菌叢の形成過程にある乳歯列完成前期・乳歯列期で齲蝕に罹患している小児を対象とし、疾患発症リスクの高い口腔内細菌叢はどの程度改善できるのかを明らかにした。対象者には齲蝕治療だけでなく、必要な齲蝕予防指導を行い、改善の度合いを解析するほか、もともと齲蝕のない小児の細菌叢とも比較した。その結果、齲蝕治療と適切な治療によってある程度齲蝕のない小児の細菌叢に近づくことが示された一方で、あまり改善の見られない小児もみられた。今後は、このようになかなか細菌叢の改善が見られない、齲蝕リスクの低下しにくい小児に、どうすれば効果的に健康な同年齢の菌叢に近づけられるのかについて検討を加えたいと考えている。
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