研究課題
本年度は前年度に引き続き、健康成人における口唇閉鎖力・舌圧の測定値と歯列模型から得られた三次元データを用いて、評価手法を検討することを目的として口腔の形態と機能との関連性に関する詳細な分析を行った。歯列の健全な若年成人102名(男性62名26.2±3.3歳、女性40名24.4±3.6歳)を対象とした。事前に研究内容を説明し、同意を得た対象者に口唇閉鎖力と舌圧の測定を行い、上下顎歯列模型を採得したのち、模型の三次元的形態計測を行った。口唇閉鎖力、舌圧の測定値と得られた三次元データにおける各々の模型計測値との相関、各測定値の男女差、模型計測値について検討した。以下のような結果が得られた。1)口唇閉鎖力と舌圧に関して、男性では明らかな相関は認められず、女性では有意な正の相関が認められた。2)口唇閉鎖力、舌圧と各計測項目に関して、男性では、舌圧と上顎第一大臼歯近心咬頭間距離・口蓋側最深部間距離に有意な正の相関が認められた。女性では、口唇閉鎖力、舌圧ともにいずれの計測項目との相関関係は認められなかった。3)男性においては、舌圧の分布に正の相関を認めた模型上の計測項目は、上顎犬歯口蓋側歯頚部最深部間距離、上顎第一大臼歯近心咬頭間・口蓋側最深部距離となった。口唇閉鎖力にはいずれの計測項目も相関が認められなかった。4)女性では、舌圧の分布に正の相関が認められた計測項目は前後径のみで、口唇閉鎖力にはいずれの計測項目も相関は認められなかった。5)舌圧、口唇閉鎖力、上顎の第一小臼歯口蓋側最深部距離、第二大臼歯歯間距離、第一大臼歯歯間距離、口蓋深さ、口蓋容積、口蓋表面積に有意な男女差を認めた。6)歯列模型の三次元データにより、成長が終了し歯列咬合が安定した成人期前期において口蓋の容積を含めた詳細な計測が可能であった。
3: やや遅れている
昨年度に引き続き成人における資料数を拡大して口唇閉鎖力と舌圧のデータの採取を継続したことで、口腔機能と歯列および口腔形態との関連性について、詳細な統計学的検討を行った。年齢および各計測値について、Shapiro-Wilk検定を用いて、分布の正規性を検討したところ、ほとんどの変数において正規性が認められなかったため代表値は中央値、分布は25パーセンタイル値および75パーセンタイル値で示した。はじめに、Mann-Whitney U検定を用いて男女差を検討した。次に、男女別に、口唇閉鎖力、舌圧と各計測値との関連をSpearman順位相関係数を用いて検討した。さらに、口唇閉鎖力と舌圧のそれぞれについて、口腔形態計測値との関連性をより詳しく調べるために、男女別に中央値、25パーセンタイル値および75パーセントタイル値で三分位し、各口腔形態計測値の3群の比較をKruskal-Wallis検定を用いて検討した。本研究により、口唇閉鎖力、舌圧と口蓋容積との間に相関は認められなかった。著しい歯列不正や明らかな不正咬合を認めない者を対象とした場合、口唇閉鎖力は口蓋形態、歯列との関連を認めず、舌圧は第一大臼歯の位置に関し、歯列との関連を認めた。三分位を用いることにより、男性において、ある閾値を超えた舌圧を持つものは歯列の幅径が大きくなる傾向があることが判明した。このように、成人における口腔機能と口腔形態の関連性を示す部位が明確となっている。現在、6歳以降の各年齢、性別における口唇閉鎖力と舌圧に関するデータを採得中であり、その際に生活習慣に関する調査を並行して進めているが、各歯列・咬合の発育期となる小児における形態に与える機能の影響に関するデータについては、試料数が少ないため詳細な分析は進んでいない。
現段階では、成人において著しい歯列不正や明らかな不正咬合を認めない者を対象とした場合、口唇閉鎖力は口蓋形態、歯列との関連を認めず、舌圧は第一大臼歯の位置に関し、歯列との関連を認めた。統計学的分析の際に三分位を用いることにより、男性において、ある閾値を超えた舌圧を持つものは歯列の幅径が大きくなる傾向があることが明らかとなった。第一大臼歯はその萌出時期が6歳前後と低年齢であり、咬合高径の確立や咬合の安定、咬合力においても大きな役割を果たすため、小児期からの管理が重要となる。小児期に舌圧の測定値を得ることが、将来の上顎第一大臼歯の歯列弓内での位置関係を予測する因子の一つとなる可能性が示唆された。これらのことから、小児期からの継続した口腔機能の評価をすることは、成長発育における歯列・咬合の形成に対する口腔機能の役割を解明する一助となる可能性がある。口腔機能、口腔形態の評価方法において、公的医療保険による診療の対象となった口腔機能発達不全症の患者に対する評価方法の確立に向け、検査、測定項目を精査する必要があると考えられる。また、学童期の小児の口腔機能と身体組成、生活習慣ならびに栄養摂取状況の関連を明らかにすることにより、口腔機能の向上が身体機能の向上につながる可能性が示唆される。身体の運動能力と口腔機能との関連性について検討するため,生活習慣の調査と運動能力の評価を行う予定である。
当該年度に購入を予定して見積もっていた検査用機器の購入額が想定された価格を下回ったため、物品費として支出予定の金額が減少したことによる。差額分 については今後必要となる口腔機能(口唇閉鎖力、舌圧)計測等に使用する検査用消耗品の購入を検討したが、年度内に購入した場合、合成樹脂等の消耗品の長期保管が必要となり、材質の劣化を招く恐れがあるため、次年度に消耗品の購入に充当することを計画している。
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