研究課題/領域番号 |
18K09876
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野原 幹司 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (20346167)
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研究分担者 |
松村 えりか 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (30816450)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 嗅覚障害 / 低栄養 / 食欲 / 味覚障害 / 要介護高齢者 |
研究実績の概要 |
高齢者において食欲不振に起因する低栄養が問題となっており,その中でも要介護高齢者における低栄養が深刻化している.食欲に影響を与える因子としてにおいが挙げられるが,要介護高齢者は, 嗅覚機能が低下することで食欲不振が助長されている可能性がある.そこで,前年度は健常成人と要介護でない高齢者の嗅覚と味覚機能の比較を行ったところ,高齢者において両感覚が低下していることが示され,とくに嗅覚機能の低下が顕著であることが明らかとなった.その結果から,加齢にともない嗅覚機能は低下する可能性が示された. 今年度は,要介護状態が嗅覚機能に影響するかを明らかにするために,要介護高齢者158名(65~102歳,平均年齢84.4歳)と非要介護高齢者37名(68~90歳,平均年齢81.2歳)の嗅覚機能を比較した結果,要介護高齢者で有意に低下していることが明らかとなった(年齢を共変量とした共分散分析).また,嗅覚低下に関連する因子としては認知機能(HDS-R)が有意であり,食欲(CNAQ)やBMIは関連がなかった.今回の結果から,要介護高齢者では非要介護高齢者と比べて嗅覚の低下がみられること,その低下には認知機能低下が関連している可能性が示された.一方,要介護高齢者でみられた嗅覚機能の低下は,食欲やBMIには影響していない可能性が示された. 最終年度となる2020年度は,要介護高齢者内において,嗅覚機能と食欲および栄養状態の関連を明らかにするために解析を進めていく予定である.また,味覚についても因子として加えて,味覚・嗅覚と食欲や栄養状態との関連も検討する.そこで関連が示されれば味覚・嗅覚を考慮した要介護高齢者における栄養改善プログラムを開発したいと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は嗅覚の測定方法としてOSIT-Jを用いること,味覚の測定方法としてソルセイブを用いることを決定した.両者は,認知機能低下が重度でなければ使用することができ,要介護高齢者でもデータを採取できることが明らかとなった. 本年度は,要介護高齢者のデータおよび非要介護高齢者のデータを収集することに重点を置いた.研究に同意を得られるかどうかで被験者が限られ,また同意が得られていても,測定当日の気分のむらや拒否,体調不良によって,当初予定していたほどデータが集められなかった.データ採取協力施設を鹿児島にまで広げることで,そちらで多くの被験者に協力してもらうことができ,想定していた150名以上の要介護高齢者のデータを得ることができた.現時点で非要介護高齢者37名,要介護高齢者158名であり,このデータを用いて種々の解析を行う予定である. 本年度は要介護高齢者と非要介護高齢者の2群間の比較を主に行ったが,両群の年齢が異なったため,年齢を共変量とした共分散分析とした.来年度は,本研究のメインの目的である要介護高齢者を対象として,嗅覚・味覚機能の低下が食欲・栄養状態に与える影響を明らかにしていく予定である.そのためには多変量解析が必要である. 本年度,結果の一部を英語論文で発表したが,来年度にも論文を複数作成する予定としている.
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今後の研究の推進方策 |
データの収集については,ある程度数が集まったため,いったん終わりとする.ただし,解析を進めていき,また,学会での質疑応答や論文査読において追加のデータを求められたときには,再度収集を行っていく. 来年度は,本研究のメインの目的である要介護高齢者を対象として,嗅覚・味覚機能の低下が食欲・栄養状態に与える影響を明らかにしていく予定である.そのためには単変量・多変量解析が必要である.また詳細な統計に関しては,専門家の助言を仰ぐ必要があり,海外の論文では統計の証明も求められることが多い.そのために研究費を使用する予定である. 得られた研究結果は,日本老年歯科医学会や日本摂食嚥下リハビリテーション学会,国際嚥下障害学会,ヨーロッパ嚥下障害学会などでの発表を予定していたが,新型コロナウイルス感染症のために学会開催も不明である.論文前に専門家からの意見をもらいたいので,どこかの学会では発表しようと考えている. 本年度も結果の一部を英語論文で発表したが,来年度にも論文を複数作成する予定としている.投稿先は,老年医学関連や栄養関連の英文雑誌を考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請した研究成果を英語論文で発表し掲載の運びとなったが,その掲載は本年度であったものの掲載料の支払いが次年度となった.そのため本年度の使用額が少なくなり次年度使用額として算出された.次年度に論文掲載料として使用する予定である.
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