研究実績の概要 |
高齢者において食欲不振に起因する低栄養が問題となっており,その中でも要介護高齢者における低栄養が深刻化している.食欲に影響を与える因子としてにおいが挙げられるが,要介護高齢者は, 嗅覚機能が低下することで食欲不振が助長されている可能性がある.そこで,前年度は健常成人と要介護でない高齢者の嗅覚と味覚機能の比較を行ったところ,高齢者において両感覚が低下していることが示され,とくに嗅覚機能の低下が顕著であることが明らかとなった.その結果から,加齢にともない嗅覚機能は低下する可能性が示された. 要介護状態が嗅覚機能に影響するかを明らかにするために,要介護高齢者158名(65~102歳,平均年齢84.4歳)と非要介護高齢者37名(68~90歳,平均年齢81.2歳)の嗅覚機能を比較した結果,要介護高齢者で有意に低下していることが明らかとなった(年齢を共変量とした共分散分析).また,嗅覚低下に関連する因子としては認知機能(HDS-R)が有意であり,食欲(CNAQ)やBMIは関連がなかった.今回の結果から,要介護高齢者では非要介護高齢者と比べて嗅覚の低下がみられること,その低下には認知機能低下が関連している可能性が示された.一方,要介護高齢者でみられた嗅覚機能の低下は,食欲やBMIには影響していない可能性が示された. 嗅覚に加えて味覚機能についても検討を行った.要介護高齢者72名と非要介護高齢者37名を対象にして嗅覚・味覚機能の群間比較を行った結果,要介護高齢者では味覚機能が低下しているものの,嗅覚ほどの低下は認められなかった.2群間で食欲・栄養状態の比較を行ったところ有意差はなく,要介護高齢者では,非要介護高齢者と比べて嗅覚・味覚機能が低下しているものの,食欲や栄養状態には影響がない可能性が示唆された. 以上の結果は,英語論文1本として報告済であり,あと1本投稿中である.
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