研究課題/領域番号 |
18K09884
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
藤山 理恵 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (10274664)
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研究分担者 |
久芳 さやか 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (90437880)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 味覚異常 / 化学療法 / 味覚障害 |
研究実績の概要 |
化学療法により生じる味覚異常を、基礎と臨床両面から解析し、味覚異常発症の機序を明らかにすることが本研究の目的である。本年度得られた結果を基礎と臨床研究に分けて示す。 基礎研究;昨年に続き、抗がん剤による酸味の嗜好性の変化についてラットを用いて実験を行った。2瓶選択実験を行い、植物アルカロイドの抗がん剤による酸の味覚感度への影響を解析した。ラットは酸に対して拒否行動を示したが、パクリタキセル投与群では酸の味覚感度低下が観察された。酸の味覚感度低下は投与開始1日後から生じるが、投与中止後3-4日目には投与前と同様に酸に対して拒否行動を示した。これらの結果から植物アルカロイドの抗がん剤はラットの酸の味覚低下に関与していることが示唆された。本年度はさらに植物アルカロイドの抗がん剤による苦味の嗜好性変化についても酸味同様の実験を行った。その結果抗がん剤投与1コースではコントロールとの違いはなかったが、抗がん剤投与2コースでは苦味の忌避反応が弱まる傾向が得られた。 臨床研究:植物アルカロイドであるドセタキセル単剤の化学療法による治療予定の乳がん患者に対して、治療前と治療中(1コース後および3コース後)に味覚検査・血清亜鉛値・サクソンテストを行い、比較した。その結果、苦味識別感度の変化が観察された割合は1コース後で18%、3コース後44%であった。それに比し、抗がん性抗生剤とアルキル化剤併用の化学療法を受けた乳がん患者では、苦味識別感度の変化が観察された割合は1コース終了後、3コース終了後ともに40%であり、抗がん剤の種類により苦味への影響が異なることが示唆された。また化学療法前後での唾液分泌量に変化はなく、化学療法後の血清亜鉛値に有意差はなかった。 本年度の基礎研究結果および臨床研究結果より、植物アルカロイドに分類される抗がん剤は苦味識別感度に影響があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予期していないこと等はなく、計画に沿って遂行しているため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の基礎および臨床研究の結果より、植物アルカロイドに分類される抗がん剤は酸味および苦味識別感度に影響があることが示唆されたことから、今後は酸味・苦味と同様に他の味質感度(甘味・塩味・うま味)への影響を検討し、五基本味それぞれの味覚感度への影響を比較検討する予定である。また他の種類の抗がん剤(アルキル化剤・代謝拮抗薬・分子標的薬)についても、酸味識別感度への影響はもちろん他の味質感度(甘味・塩味・苦味・うま味)変化を、基礎および臨床の両面からのアプローチにより比較検討する。 ところで昨年度と本年度の臨床データを分析した結果から、抗がん剤による影響はこれまで味覚異常として捉えていた味覚感度低下(味が感じにくくなる)とおおよそ同じ頻度で、苦味・酸味の味覚感度が上昇している(今までより低濃度で味を感じる)傾向が観察された。一般の味覚外来における臨床現場では、味覚感度の基準値を設定し味覚感度上昇を味覚が良くなると捉え、病態変化と捉えない傾向が見られるが、抗がん剤副作用による味覚感度上昇は味覚感度低下と同様に自覚的味覚異常を発症する。本研究は化学療法を行う前にデータ採取を行っているため、個々人の前値と比べ抗がん剤による味覚低下だけでなく味覚感度上昇も捉えることが可能である。抗がん剤による味覚感度低下だけでなく味覚感度上昇の分析を行うことが重要と考える。 またこれまで行ってきた酸味・苦味は動物にとっては腐敗物または毒物のため、忌避反応を示す。それとは異なり、今後の研究で用いる甘味は動物にとって極めて重要なエネルギー源であり、塩味は細胞外液の主成分であり極めて重要な物質であり、うま味はタンパク合成のために必要であることから、これらの味質は嗜好性が高い。これまで得られて酸味・苦味と今後行う味質とは嗜好性に大きな違いがあり、それらを踏まえて、今後得られるデータから詳細な分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は業務の関係から、国際学会での発表が行なえなかった。次年度は積極的に参加したいと考えていたが、コロナの影響で叶わない可能性が高いため、論文による発表を積極的に行うこととする。
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