研究課題/領域番号 |
18K09884
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
藤山 理恵 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (10274664)
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研究分担者 |
久芳 さやか 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (90437880)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 味覚 / 化学療法 / 味覚異常 / 味覚障害 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、化学療法により生じる味覚異常発症の機序を明らかにすることであり、基礎研究および臨床研究からのアプローチにより解析を行っている。 基礎研究;抗がん剤によるうま味(グルタミン酸ナトリウム)の嗜好性の変化についてラットを用いて実験を行った。植物アルカロイドの抗がん剤によるうま味の味覚感度への影響を解析した。抗がん剤投与前のラットではうま味と脱イオン水の飲水量に違いは見られなかったが、初回のパクリタキセル投与群ではうま味の嗜好性が上昇した。このうま味の嗜好性はその後下がることなく2回目のパクリタキセル投与まで維持された。これまでの四基本味において観察された、抗がん剤投与後3-4日で投与前の嗜好性にもどる傾向は見られなかった。うま味に関する実験を今後さらに追加して、本年度と合わせて詳細な分析を行う予定である。 臨床研究:乳がんの化学療法による味覚変化を、化学療法前と後で電気味覚検査およびテーストディスクを用いた味覚検査を用いて比較したところ、味覚感度が下がる(味が薄く感じる)ものと逆に味覚感度が上がる(味が濃く感じる)変化が観察された。一般的に異常味覚の症状として味覚感度が下がり、味がしなくなるというものであるが、化学療法の場合、味覚感度が上がる例が少なくなかった。特に電気味覚検査を用いて化学療法前と化学療法1コース後および3コース後ともに、味覚感度が上昇する比率が高かった。またテーストディスクによる味覚検査において四基本味の感度の変化を解析したところ、化学療法1コース後は酸味、塩味、苦味の感度が上昇する傾向が、3コース後では甘味、苦味の感度上昇の傾向が観察された。 以上より植物アルカロイド系抗がん剤によるうま味の嗜好性が高まることが示唆された。また化学療法による味覚変化は味覚感度低下と同様に、味覚感度上昇する結果が得られ、今後さらに詳細な分析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ蔓延のため、動物実験および臨床データ採取が困難となり、計画通りに研究を進めることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の基礎研究の結果より、植物アルカロイド系抗がん剤によるうま味の嗜好性が高まることが示唆された。これまで行った結果からは、四基本味(甘味・塩味・酸味・苦味)において抗がん剤により変化した嗜好性は、抗がん剤投与終了後、数日で抗がん剤投与前まで回復した。しかし、本年度行ったうま味の嗜好性は、抗がん剤により上がり、その後抗がん剤の投与前には戻らない傾向が見られ、四基本味と異なっていた。今後はさらに症例数を増やして、抗がん剤によるうま味嗜好性の変化について詳細な検討を行う。 臨床研究においては化学療法による味覚変化は味覚感度低下と同様に、味覚感度上昇する結果が得られた。化学療法を受ける患者にとって、これまで食べていた味と異なることに大きなストレスを感じる。つまり、味がわからなくなることはもちろん、味が濃く感じる味覚の変化(味覚感度上昇)にも注目しなければいけないと考える。味覚検査は2種類行っている。電気味覚計による味覚検査では舌の前方と舌の後方での閾値を比較することにより舌部位の他覚的味覚感度の測定が可能である。またテーストディスクによる味覚検査では四基本味(甘味・塩味・酸味・苦味)のそれぞれの味の識別感度を測定する。そのため2つの他覚的味覚検査により、舌部位による味覚感度の違いと四基本味の識別感度について、今後は詳細な分析を行う。また化学療法による味覚異常の治療を考える上で、2つの味覚検査による他覚的味覚変化と、患者さんの訴えによる自覚的味覚変化の比較を行うことは重要であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ蔓延のため、基礎研究(動物実験)および臨床研究が計画通り進まず、次年度以降に、本年度計画していた研究のため、消耗品の購入および論文掲載料等に使用する予定である。
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