味覚障害の症状として捉えられているのは味覚感度低下である。なぜなら味覚外来では、患者の発症前の味覚感度は不明であり、他覚的評価では受診患者の味覚閾値が基準値より低値であれば味覚は正常と診断される。そのため、本研究においては抗がん剤投与前のデータを採取することにより、抗がん剤投与による味覚の影響を、味覚感度低下のみならず味覚感度上昇も含めて検討した。本年度は乳がん化学療法による味覚への影響を、抗がん剤投与前と1コースおよび3コース後について、電気味覚計による閾値の変化、四基本味の各味質への味覚感度の変化、さらにレジメンごとの味質感度変化により解析した。電気味覚計による閾値は、舌前方では抗がん剤投与前と、1コースおよび3コース後の変化は見られなかった。それに比して舌後方では抗がん剤投与前と1コース後に違いはなかったが、3コース後には閾値は低くなり、味覚感度は上昇した。次に各味質についての分析では、甘味および塩味は1コース、3コースともに変化ない比率が高く、影響は少なかった。酸味は1コース後の影響が見られ、特に味覚感度が上昇する比率が上がった。しかし、3コース後には酸味への影響が少なくなる傾向が見られた。苦味は1コースと比較すると3コース後の変化した比率が著明に高くなり、回数が増えるほど抗がん剤の影響が大きくなった。以上より、化学療法による味覚への影響は、舌の部位により違いがあり、四基本味それぞれの味質についても違いがあることが示唆された。さらにレジメンごとの特徴については、FEC(エピルビシン・シコロホスファミド・5-FU)は甘味は感度低下、酸味・苦味は感度上昇、EC(エピルビシン・シコロホスファミド)は塩味が感度上昇、DTX(ドセタキセル)は酸味で感度上昇が観察され、レジメンにより味覚への影響が異なることが示唆された。
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