研究課題/領域番号 |
18K09885
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山口 泰平 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 准教授 (80230358)
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研究分担者 |
五月女 さき子 長崎大学, 病院(歯学系), 講師 (20325799)
中野 由 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (20779988) [辞退]
有馬 一成 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (70332898)
小幡 純子 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (70759448) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 誤嚥性肺炎 / 口腔常在菌 / 病原因子 / 線毛 / 感染 / レンサ球菌 |
研究実績の概要 |
誤嚥性肺炎は高齢者、障害者さらには周術期の患者さんなどで重要な感染症のひとつである。口腔常在菌が不顕性誤嚥により肺に侵入し、免疫抵抗力が低下した状態で肺炎を引き起こす。誤嚥性肺炎は複数の種類の細菌による複合感染が多く、原因菌の特定は単純ではないが、本研究で対象にしているアンギノーサスグループレンサ球菌は代表的なものである。細菌と宿主組織との分子的な結合は感染の第一歩であり、相互の結合因子を同定して結合機構を解明することは感染予防、治療に際して重要である。これまでに新規の病原因子として菌体表層の線毛様構造物を報告しており、いずれも宿主への初期付着に関与していた。そこで、それらによる肺炎発症機構との関連の解析を目的としている。当該年度では3種類の菌体表層物質のリコンビナントタンパク(Saf2, Saf3, AgI/II)を結合したプラスチックビーズによる、マウス肺の標的物質の分離、同定を行った。その結果、チップタンパクであるSaf2が細胞のチューブリンタンパクと結合することが明らかになった。しかしチューブリンは全ての細胞が有するものであり、肺に特異的なものではないことから、肺組織の細菌結合物質は他にあるのか、あるいは肺に特異的なチューブリンの構造が存在しているのか検証を進めている。 Saf2の全アミノ酸配列からデータベースで類似物質を検索したとろ、レンサ球菌由来のコラーゲン結合タンパクが同定できた。また相同性の高い場所はSaf2タンパクの中間の約100アミノ酸から構成される部分であった。次年度の計画では結合配列を詳細に決定すべく、この部分の合成ペプチドを用いて菌と肺組織の結合阻害反応、ペプチドと肺由来のチューブリンあるいは未知の標的因子の直接結合試験を実施する予定である。この結果により、分子構造レベルでの結合様式を決められるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染機構の解析のために細菌由来の表層タンパク3種類(Saf2, Saf3, AgI/II)を用意していた。これを結合したプラスチックビーズの作成は順調に進み、マウス肺の抽出液を用いて親和性のある物質を精製、同定した。本菌は肺に感染することから、得られた物質は肺に特異的な物質であることが期待された。しかし最終的に得られた物質はチューブリンタンパクであった。この物質は肺特異的とは言い難く、広く体内に分布しているものである。従って、本当の標的物質は別にある、あるいは肺に特異的なチューブリン構造があるという2つの仮説が考えられる。この点について現在検証を進めている。一方で細菌側の因子として最も有力視しているのがSaf2タンパクである。アミノ酸配列は既に分かっていたため、コンピューターによる分子構造解析を行った。相同性の解析から類似の機能を持った物質が数個検出され、さらに宿主に結合するための機能構造、約100アミノ酸配列が推定できた。この結果に基づいて次年度はより必須の配列を決定すべく、当該部分の合成ペプチドを用意して結合への関与を解析する予定である。以上のことから「おおむね順調に推移している」から「やや遅れている」という判断をしている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のようにマウス肺由来の口腔レンサ球菌の標的物質を同定できたものの特異性を欠いていた。現在、新たな特異物質の同定、あるいは得られたチューブリンの肺特異的構造の検出について研究を進めている。一般的にはチューブリンに臓器特異的な構造があるとは考えにくく、おそらく別の肺特異物質が存在しているのではないか、という仮説を持って更なる精製を進めている。一方、相同分析で得られたSaf2の類似物質はコラーゲン結合性タンパクであった。チューブリンは線維様の構造を持っており、コラーゲン類似の構造である。このためSaf2の標的物質として十分な候補と考えられる。コンピューター分析によりSaf2およびチューブリンの分子構造的な相互作用はシミュレーションが可能であり、詳しく解析することができる。さらにSaf2の結合部分と考えられる100アミノ酸からなる配列をカバーする合成ペプチドによりさらに詳細な結合機構の解析を予定している。 平行して健常人あるいは患者由来の口腔細菌を分離して、アンギノーサスグループレンサ球菌が有するいくつかの病原因子の有無について評価する。本菌は全ゲノムが決定されているため、各病原因子遺伝子の塩基配列は公表されている。そのためPCR法による遺伝子解析が可能である。本方法は簡便であり、感度も高いので比較時容易に解析が可能と考えている。この結果により、各個人での本菌種の有無、各病原因子の有無が分かることから、少なくとも本菌に由来する肺炎に対するリスクを判定することができることが期待される。この解析に際して前半の肺の標的物質の特定は不要であり、本来の研究計画通りに進行することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が多く残ってしまった。これは当該年度で一部執行する予定であった合成ペプチドを使った実験が遅れていることにある。そのため、現在進めている、合成ペプチドを使った実験に当該年度分の繰り越しと次年度分の予算の多くを予算化している。20アミノ酸からなるオリゴペプチドは1個当たり5万円くらい要し、まずはこれを5セット使って細菌の結合因子Saf2と肺由来の標的物質との結合部分を特定した後、1残基ずつアラニンに置換したペプチドを持いて更なる結合機構の解析を行う(アラニンスキャン法)。 研究打ち合わせ費用について、当該年度は1か所で報告を実施したが、本年度は数か所での打ち合わせ、報告を予定している。また、研究の一部は学術雑誌に投稿、公表を予定している。このため、当該年度分を積み増した予算で対応する予定である。 当初予算化していたバイオシェーカーの購入が遅れているが、これまでは以前作成した組み換え菌表層タンパク(Saf2, Saf3, Ag I/II)を使用してきた。しかし、そろそろ不足してきているため新規に作製する必要が出てきた。作製にはシェーカーが必要であり、今年度の購入を検討している。
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