研究課題/領域番号 |
18K09890
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
米澤 英雄 杏林大学, 医学部, 講師 (60453528)
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研究分担者 |
中尾 龍馬 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (10370959)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ランチビオテックスバクテリオシン / 腸内マイクロビオータ |
研究実績の概要 |
近年腸内マイクロビオータの機能的な解析が飛躍的に進展され、腸内マイクロビオータの細菌構成異常(dysbiosis)は生活習慣病である肥満、動脈硬化、糖尿病を引き起こすこと、さらには自己免疫疾患や自閉症などに関与していることも報告されている。腸内マイクロビオータのdysbiosisは主に食餌や抗菌薬服用により起きることが報告されている。 口腔内に存在する細菌やそれら細菌が産生する物質は唾液とともに絶えず腸管へと流入している。本研究では腸管に流入する口腔内細菌産生物質、特にグラム陽性細菌に対して強い抗菌活性を有するランチビオティクスバクテリオシンに着目し、ランチビオティクスバクテリオシンを産生する細菌を口腔内に保菌することが腸内マイクロビオータdysbiosisの原因となりうるか、について検討している。 小児69人の唾液サンプルを用いて、口腔内細菌が産生する代表的なランチビオテックスバクテリオシンMutacin I/IIIおよびSmbを産生する細菌保菌者を確認したところ13人で検出された。Mutacin I/IIIおよびSmbが口腔から胃を経て腸管にたどり着く過程として、熱・酸・消化酵素による処理を行いその抗菌活性への影響を調べたところ、これらの処理に対して抗菌活性は影響を受けないことが明らかとなった。そこで口腔内にランチビオティクスバクテリオシンを産生する細菌の保菌者(13人)と非保菌者(56人)とで、腸内マイクロビオータの比較検討を行ったところ、ランチビオテックスバクテリオシン産生細菌保菌者グループは非保菌者グループと比較して、α-diversityの低下、Firmicutes 門細菌占有率の低下、Bacteroidetes門細菌占有率の上昇が起きていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度および次年度において、口腔内にランチビオテックスバクテリオシン産生細菌を保菌する群および非保菌者群による腸内および口腔内マイクロビオータの比較解析を行う予定であった。また得られたデータより変動が起きる特定細菌を抽出し、それら細菌の変動とClostridioides difficile感染症を中心としたヒト全身疾患の発症との関連について、その手がかりを得ることが本年度までの研究計画予定となっている。 本年度得られた結果として、ランチビオテックスバクテリオシン(Mutacin I/IIIおよびSmb)産生細菌保菌者グループでは非保菌者グループと比較して、Anaerostipes属細菌(Family Lachnospiraceae)の減少、Holdemania属細菌の減少が起きていることが明らかとなった。またMutacin I/III(5人)およびSmb産生細菌保菌者(8人)間における腸内マイクロビオータの比較検討では、大きな違いは認められなかった。さらにMutacin I培養上清を摂取させたマウスの腸内マイクロビオータの解析より、ヒトと同様にFirmicutes門細菌占有率の減少、Bacteroidetes門細菌占有率の増加が認められ、更にFamily Lachnospiraceaeの占有率減少が認められた。Family Lachnospiraceaeに関しては、肥満に関与している報告があり、またFamily Lachnospiraceaeに属するAnaerostipes属細菌はClostridium clusterXIVaに属する細菌として、次世代プロバイオテックスの可能性について現在注目されている細菌である。口腔内にランチビオテックスバクテリオシン産生細菌を保菌するか、という新規観点による解析方法からこうした細菌が抽出出来ていることは非常に興味深い結果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
口腔内にランチビオテックスバクテリオシンを産生する細菌を保有するヒトではAnaerostipes属細菌が減少することが、ヒトサンプルによる解析だけでなく、マウスモデルにおいても確認できた。 Anaerostipes属細菌はClostridium clusterXIVaに属する細菌であり、酪酸 を産生する。腸内細菌が産生する酪酸は大腸上皮細胞のエネルギーとして使用される。また消化管慢性炎症を起こすクローン病や潰瘍性大腸炎患者では、腸内における酪酸産生が低下していることが報告されている。つまりClostridium clusterXIVaに属する細菌の腸内マイクロビオータ中からの減少は、ヒト疾患に関与する可能性は高いと考えられる。これまで得られた結果から、ヒト腸内に存在するAnaerostipes 属細菌としてAnaerostipes hadrus、A. caccae、A. butyraticusが検出されている。こうした細菌は、近年マイクロビオータ解析により注目されているものの、その性質はまだ詳しくは明らかとはされていない。そこで本年度はこれらAnaerostipes属細菌の細菌学的性状の解析に加えて腸内での働き、他の常在細菌に及ぼす影響、そしてC. difficileを中心とした病原性細菌への作用について検討を行う。A hadrus、A. caccaeはゲノムシーケンスが報告されていることから、それらを参照に短鎖脂肪酸産生能や産生物質を探索・検討する。A. butyraticusはゲノムシーケンスはまだ報告されていないことから、全ゲノムシーケンスを行い、上記細菌と同様の解析を行う。さらにAnaerostipes 属細菌と腸内マイクロビオータ構成細菌との相互作用について、またC. difficileやC. perfringens、MRSAなどの病原性細菌への影響についての検討を、Anaerostipes 属細菌との共培養や菌体成分添加培養により検討する。 以上より口腔内にランチビオテックスバクテリオシン産生細菌を保有することが、ヒトの健康や全身的な疾患発症にどのような影響をもたらすかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
費用のかかるメタゲノム解析が最低限の回数で目的を達することができ、消耗品等の購入も教室所有の物品を使用することができたため繰り越し金額が大きくなった。また予定していた国際学会がcovid19の影響で中止となったため旅費の請求もなくなっている。本年度は必要に応じて費用のかかるメタゲノム解析やゲノムシーケンスを行うため、これらの費用に充てる。
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