研究課題/領域番号 |
18K09892
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田村 宗明 日本大学, 歯学部, 准教授 (30227293)
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研究分担者 |
泉福 英信 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (20250186)
植田 耕一郎 日本大学, 歯学部, 教授 (80313518)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔ケア / 歯周病予防 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
超高齢者社会の近年、8020運動が実を結びつつある反面、残存歯が増加していることに伴い口腔二大疾患、特に歯周病の罹患率が上昇している。歯周病に罹患した場合、口腔内のみならず糖尿病などの全身疾患の発症と深く関わっているが報告されていることから、高齢者の歯周病予防は非常に重要である。申請者らは、天然抗菌成分のカテキンを含有した口腔ケアジェルを開発し、その選択的抗菌効果を応用して齲蝕ならびに歯周病とこれらに関連する全身疾患の発症予防の可能性と臨床応用への期待を導いた。今回、これらの背景から高齢者の歯周病予防に特化した新規口腔ケアジェルを開発し、その臨床応用の可能性について検討することとした。今回、さまざまな天然成分やイオンなどを供試して歯周病原菌に抗菌効果を発揮する成分の検索を行った。その結果、ワサビに含まれている揮発性のアリルイソチオシアネートなどのいくつかの天然植物成分と、6種類のイオンを放出するバイオアクティブガラスを見出し、病原性の口腔微生物の発育を阻害するとともに、これらの菌が産生する宿主に為害作用を示す病原因子を抑制することを確認した。したがって、これら新規成分による口腔ケア剤は、高齢者の口腔内歯周病原菌の増殖・病原性を抑えることによって歯周病の予防に貢献できるものと考えられ、今年度は動物実験と臨床試験の準備を行った。今後は動物および臨床試験を実施して臨床応用の可能性について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.新天然植物抗菌成分および金属イオンの検索と抗菌実験 (in vitro) もっとも歯周病発症に関与していると報告されているPorphyromonas gingivalis以外の歯周病原菌のFusobacterium nucleatumやAggregatibacter actinomycetemcomitansなど数菌種を供試し、これまで報告したカテキンをコントロールとして天然植物成分のアリルイソチオシアネートと6種類のイオンを放出するバイオアクティブガラスから放出するイオンが供試したすべて歯周原因菌の発育を阻害することを確認し、MIC50(50%発育阻止濃度)を算定した。また、これら歯周病原菌の有する病原因子のである代謝産物(短鎖脂肪酸)とタンパク分解酵素の産生量も抑制していた。また、本研究の目的とは異なるが、齲蝕原因菌の産生する酵素に対する抑制効果も確認した。 2.In vivoでの実験計画 同時に着目した成分のアリルイソチオシアネートが食品由来であること、バイオアクティブガラスは歯科材料として利用されていることから、臨床実験のための倫理委員会書類の提出と承認を受け、臨床実験によるこれら成分の口腔内での有用性を試す準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1.新規抗菌成分の抗菌機序について:アリルイソチオシアネートとバイオアクティブガラスから放出する6種類のイオンを供試し、これら成分による細菌細胞内の変化、特に酸化ストレスについてはkitを用いて、タンパク分解酵素や短鎖脂肪酸産生に関与する細胞内シグナルに関わるmRNA発現量の変化をreal-time PCRで測定し、これら成分の抗菌効果・機序を明らかにする。 2.歯周病原菌感染ラットを用いた動物実験:歯周病原因菌定着ラットを作製し、上記新規抗菌成分のジェルを塗布することによる口腔内の歯周病原菌数の変化を培養法もしくはreal-time PCRで評価する。さらに口腔内軟組織および血液を回収し、サンプル内のサイトカイン量を計測して歯周病原菌への影響のみならず宿主組織への影響も検討する。 3.臨床実験:研究内容に同意を得た歯周病罹患の被験者から唾液を採取する。その後、新規抗菌成分ジェルをある一定期間(1~数か月)口腔内、特に歯肉溝部分に塗布し、期間終了後に再び唾液を回収、real-time PCR法や次世代シークエンシング法(MiSeq, Illumina)で菌叢解析を行い、歯周病原菌数の減少効果について評価する。さらに歯周組織の状態(ポケット深さや出血など)の変化を確認するとともに、開発した抗菌ジェルの臨床応用の可能性と歯周病予防効果ならびに歯周病関連全身疾患予防の有用性について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行するにあたり予想していたことよりもマンパワーと時間がとれず、動物を用いた実験が研究期間内に開始することができなかったことから、これらに使用予定であった予算を使用できなかった。次年度への繰越金は、令和2年度の助成金と合わせて歯周病原菌に及ぼす影響の実験と動物実験、臨床実験に使用する予定である。
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