研究課題/領域番号 |
18K09906
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠田 壽 東北大学, 歯学研究科, 名誉教授 (80014025)
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研究分担者 |
木野 康志 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00272005)
千葉 美麗 東北大学, 歯学研究科, 講師 (10236820)
清水 良央 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30302152)
高橋 温 東北大学, 大学病院, 助教 (50333828)
鈴木 敏彦 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (70261518)
岡 壽崇 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門, 研究副主幹 (70339745)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 乳歯 / 外部被ばく量 / ESR法 / 炭酸ラジカル / 重液分離 |
研究実績の概要 |
ESR測定用乳歯の収集:これまでに、福島県在住小児を中心に、全国から7,000本を越える乳歯を収集してきた。それらの中から、旧警戒区域に在住しており、原発事故後、他地域に移住した小児より、ESR法による炭酸ラジカル測定用として、およそ50本の乳歯を選別した。また、対照として、原発事故の影響を受けていないと推定される他県の子供たちからも、およそ50本の乳歯を確保し、アーカイブ化した。 ESR測定用の歯エナメル質サンプル調製法の開発:放射線被ばくにより、歯エナメル質中には、放射線量に比例して炭酸ラジカルが発生する。また、放射線被ばくにより、象牙質中には有機ラジカルが発生し、この有機ラジカルは、炭酸ラジカル測定の阻害要因となる。そのため、粉砕した歯粉末から象牙質を除き、エナメル質のみを分離する作業が必要となる。従来はエナメル質だけを機械的に削り取る方法が用いられてきたが、この方法は、多数のエナメル質サンプルの調製には適さない。このため、本研究では、象牙質とエナメル質の比重の違い(エナメル質は、比重2.8以上、象牙質は比重2.4以下)を利用し、両者をメタタングステン酸ナトリウム溶液により、分離する方法を開発した。また、NaOH溶液や酢酸溶液を用い、エナメル質中の有機ラジカルやメカノラジカルを除去する化学処理法を開発した。 乳歯エナメル質を用いた照射放射線量と炭酸ラジカル量発生の比例直線関係の構築:分離したエナメル質粉末に累積的にガンマ線を照射し、それによって発生する炭酸ラジカル量が、どの範囲内であれば直線的な比例関係にあるかについて基礎的な検討を行った。その結果、34mGy以上の照射において、両者の間には信頼性を担保できる比例関係があることが判明した。今後、これ以上の被ばくがあったか否かを基準にして、福島県在住小児の外部被ばく量を推定することになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の内容」の項で述べたように、これまでに、乳歯の収集と選別、ESR測定用エナメル質サンプルの調製法、乳歯エナメル質を用いた照射放射線量と炭酸ラジカル量発生の比例直線関係の構築、等について基礎的な検討を終了した。研究を進展させるためには、収集した乳歯からESR用のエナメル質サンプルを調製し、実際にESR装置を用いて炭酸ラジカルのスペクトルを定量する必要がある。しかし、測定を予定していたESR装置が、令和1年秋の台風19号による研究室の水害によって使用不能となり、今日まで予定の測定を実施することができなかった。しかし、本年4月、新しいESR装置が購入されることになり、研究の継続が可能となった。今年度は、これを用いて収集した対象乳歯エナメル質中のラジカル量の測定を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究班では、平成26年以来、福島県歯科医師会との共同により、福島県を中心に全国より乳歯の収集を行ってきた。その数は現在まで7,000本を超えているが、本研究においてはそれらの乳歯のうち、最も外部被ばく量が多いことが予想される帰宅困難区域から避難した子供から提供された乳歯50-100本を中心に解析を進める。また、これら福島県乳歯の対照として、原発事故の影響を受けていないと考えられる他県からの乳歯、50-100本を選び、解析に供する。これらの乳歯は、クライオプレスによって粉砕し、粒度を400-1000メッシュ程度に揃えたのち、ESR用のサンプルを調整する。前述したように、ESR法を用いてエナメル質サンプル中の炭酸ラジカルの測定を行う際には、有機ラジカルの発生が妨害因子となるため、有機物を多く含む象牙質をあらかじめ取り除き、また、エナメル質からも有機物を極力除く必要がある。本研究では、前年度までに新たに開発した、メタタングステン酸ナトリウムによる重液分離法を用いてESR測定に適したエナメル質サンプルの調製を行う。これらサンプルについて、エナメル質中炭酸ラジカル量をESRを用いて測定し、得られたESR intensityから炭酸ラジカル量を推定する。この値をすでに作成済みの、ガンマ線照射量とラジカル発生量の関係から得られた検量線に当てはめ、帰宅困難区域から避難した福島県在住小児の外部被ばく量について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年秋の台風19号により、本研究を実施するための必須機器である電子スピン共鳴装置(ESR装置)を設置していた東北大学理学部放射化学研究室地下室が浸水し、この装置が使用不能となり、廃棄される事態となった。そのため、収集した乳歯中の炭酸ラジカルの測定ができなくなった。しかし本年4月に、新しいESR装置が購入されることになったこと、また、学内で、他の研究に使用されていたESR装置の共同使用へも道が開けたため、研究を継続できることとなった。本年度の研究に使用予定の予算は、学内で使用する予定のESR装置で得られる測定値を安定化させるために必要となる水冷式の冷却装置を購入させるために主に使用する予定である。他は、乳歯からESR試料を調整するために必要な化学処理用の試薬購入等に充てる予定である。
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