研究実績の概要 |
黄色ブドウ球菌の感染対策として、特にMRSAを対象に保菌調査が行われる。調査部位はもっぱら鼻腔であるが、咽頭保菌者も多い。また鼻腔での除菌法は確立されているが、咽頭保菌に関して健常人では対策が定まっていない。 平成30年度は、咽頭保菌の実態把握を目的に、平成28年度から先行して行っていた大学で口腔保健または臨床検査を専攻する3・4年生を対象にした鼻腔と咽頭の黄色ブドウ球菌保菌調査を継続し、得られた菌株のDNA型別を実施した。協力を得られた延べ313名中鼻腔保菌率は37%、 咽頭保菌率は57%で、咽頭は鼻腔に比べ有意に保菌率が高かった(OR: 2.24, 95%CI: 1.62-3.09)。また、検査学生(191名)では口腔学生(122名)に比べ咽頭保菌率が有意に高かった(68% vs 39%, OR: 3.29, 95%CI: 2.05-5.28)が、鼻腔の保菌率では専攻間で有意差はなかった(39% vs 33%, OR: 1.33, 95%CI: 0.82-2.13)。型別の結果、鼻腔と咽頭に両方保菌する81名のうち、38%が異なる菌株を保有していた。 個人の1年後の保菌状況を111名について追跡した。黄色ブドウ球菌の消失や獲得、またDNA型別により菌株の入れ替わりを確認した結果、1年後に新たな菌株を獲得したのは咽頭で34%と、鼻腔の15%より有意に多かった(OR:2.88, 95%CI:1.50-5.51) 。 今回の検討でDNA型別で2例、菌株の持続/入れ替わりが評価できず、一部位に同時に複数型の菌株の生息が推定された。これまでは、一部位につき一つの型の菌株を保有しているという前提にたって、1コロニーしか釣菌していない。実際に複数菌株を保有しているケースはさらに多いと思われ、菌株の入れ替わりの正確な評価には複数菌株の保菌を想定した方法を考案する必要がある。
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