研究実績の概要 |
透析患者の主な死因は心血管疾患と感染症(肺炎など)である。特に心血管疾患はわが国での死因の第一位を占める重要な疾患である。心臓と腎臓は体液調節に関して密接な関係があり、いずれかの臓器に障害が起ると、もう一方の臓器に機能低下が起こる。このような機能的連鎖を「心腎連関」と呼ぶ。歯周病は心腎連関に共通する基盤病態であり、心腎連関を進展させると考えられている。近年、歯周病が透析患者の生命予後に与える影響について国内外で評価された(Iwasaki et al. J Clin Periodontol 2017など)。しかしながら、その結果は一致していない。 本研究の目的は、透析患者を対象とした前向きコホート研究を新たに実施し、歯周病が透析患者の心血管死リスクへ与える影響を、特に疾患感受性に関連する遺伝子多型の観点から明らかにすることをある。 2020年度には透析患者166名から得たデータの整理を行った。また遺伝子多型分析を実施した。新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定していた調査を中止したため、既存のデータを用いて歯周病と血管内皮機能の関連の評価を行った。その結果、歯周組織の炎症の程度が血管内皮機能と関連していることを明らかにし、国際学術誌を通じて公表した(Iwasaki et al. Journal of Periodontal Research. 56(2), 423-431, 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主に腎機能の視点から歯周病と全身の関連について研究を進め、これまでに英語原著論文5本に研究結果をまとめ公表した(Iwasaki et al. Journal of Clinical Periodontology. 45(8), 896-908, 2018; Iwasaki et al. Gerodontology. 35(2), 87-94, 2018; Iwasaki et al. Journal of Periodontology. 90(8), 826-833, 2019; Iwasaki et al. Journal of Periodontal Research. 54(3), 233-240, 2019; Iwasaki et al. Journal of Periodontal Research. 56(2), 423-431, 2021)。 2020年度には血液透析患者166名を対象に遺伝子多型分析を実施した。ここまでは順調に進展していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定していた調査を中止した。よって本事業の延長の申請を行った。
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今後の研究の推進方策 |
疫学調査再開後に、ベースラインデータベースを完成させ、歯周病が透析患者の心血管死リスクへ与える影響を、特に疾患感受性に関連する遺伝子多型の観点から明らかにしていく予定である。 あわせて、自身が関与している国内の複数の疫学研究にも継続して携わり、本研究で得られた結果と、別の対象集団で得られた結果の比較などから、結果の一般化の可能性について評価していくことを計画している。 得られた結果は国内および国際学会での発表や学術誌への論文投稿などを通じて積極的に発信していく。なお、研究活動はThe University of California, San Francisco, School of Dentistry教授George W. Taylor、University of Michigan臨床助教Wenche S Borgnakkeと連携をとって行う予定である。
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