研究課題
口腔ケアがインフルエンザの発症リスクを低下させるとの臨床研究の報告があるものの、その分子メカニズムは不明のままである。そこで本研究では、口腔細菌がインフルエンザウイルスの感染に及ぼす影響を分子メカニズムの視点から解明し、インフルエンザ予防法として口腔ケアが有効であることを示すため本研究を実施した。すでに歯周病原菌であるFusobacterium nucleatumとPorphyromonas gingivalisがインフルエンザウイルスの増殖を促進することを見出している。近年、インフルエンザウイルスの増殖促進にHDAC1とHDAC6の低下が関与してことが報告されている。そこで本年度は、歯周病原菌がHDACの低下を介して増殖を促進すると仮説を立て検討した。ヒト呼吸器上皮細胞株(A549細胞)をF. nucleatumで前処理後にインフルエンザウイルスを感染させ、HDAC1とHDAC6の発現状態をリアルタイムPCRとウエスタンブロットで検討した。その結果、遺伝子発現およびタンパク質の発現がF. nucleatumの前処理をした細胞においては低下していた。以上の結果から、F. nucleatum によるHDAC1とHDAC6の低下がウイルスの増殖を促進している可能性が示唆された。さらに歯周病原菌が産生するどの物質により増殖を促進するのかについても検討を加えた。歯周病原菌が産生する代表的な数種類の代謝産物によりA549細胞をそれぞれ前処理後、インフルエンザウイルスを感染させ、その後プラークアッセイによりウイルスの増殖状態を調べた。その結果、一部の代謝産物においては、代謝産物の濃度依存的にウイルスの増殖促進を認めた。以上の結果から、歯周病原菌の代謝産物がインフルエンザウイルスの増殖を促進している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、インフルエンザウイルスの増殖促進に歯周病原菌が産生する代謝産物が関与していることを明らかにすることができた。これは、代謝産物の刺激により宿主細胞が何かしらの変化をしたことにより、ウイルスの増殖が促進されたと考えられる。また、歯周病原菌の刺激によりウイルスの増殖を促進すること、またHDACの発現が低下していることを明らかにした。HDACの発現低下がウイルスの増殖促進に関与することが報告されていることから、歯周病原菌がHDACの発現低下を介してウイルスの増殖を促進している可能性が考えられる。歯周病原菌によるウイルス増殖促進メカニズムを明らかにしつつあることから、進捗状況はおおむね順調と判断した。
今後はHDAC6の発現低下によるインフルエンザウイルスの増殖促進メカニズムについて着目する。HDAC6をRNAiによりノックダウン、およびHDAC6強発現細胞株を作製しウイルスの増殖状態を解析する。また、HDAC6は微小管の構成因子であるα-チューブリンを脱アセチル化する酵素であり、α-チューブリンのアセチル化がウイルスの増殖を促進するとの報告がある。そこで、歯周病原菌がα-チューブリンのアセチル化に及ぼす影響を検討する。さらに、歯周病原菌の代謝産物がHDACの発現に及ぼす影響についても検討を加える。以上の研究により、歯周病原菌によるウイルス増殖促進メカニズムを明らかにする。
人件費を支出予定であったが、次年度に支出することとなったため、次年度使用額が生じた。研究計画に変更はなく、口腔細菌がインフルエンザウイルス感染に及ぼす影響を検討するため、次年度において実験材料、試薬、人件費などに繰越した研究費も含めて使用する。
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